2022年5月11日 (水)

「日本外交の課題」を読む

学士會会報(第953号)に掲載されていた講演録「日本外交の課題」(谷内正太郎)を読みました。講師の谷内氏は日本の初代国家安全保証局長です。

まず、米中対立の深刻化について「トゥキュディデスの罠」を指摘します。新興国と既存大国が戦争不可避になるまで衝突することです。この言葉を定義したハーバード大学のグレアム・アリソン教授によると、このような対立は過去500年間で16回あり、そのうち12回は戦争に発展したとのこと。

アメリカはもともと中国に好意的で、満洲事変後は中国の国民党、共産党のどちらも支援し、毛沢東の死後は鄧小平の改革開放を支援しました。経済発展を遂げれば中国は民主化し、人権を尊重するだろうと期待していたようです。それだけに今の中国共産党の態度に対して、裏切られたという気持ちが強いようです。

今では中国のGDPは世界2位。日本の3倍もあります。この結果、中国は尊大になりました。コク境木の場で小国が中国と相容れない意見を述べると「小国の分際で偉そうなことを言うな」と露骨にいっているようです。

今の中国は、中国共産党が支配していますが、中国共産党はマルクス主義を信じていません。しかしながら、目的のための手段は正当化するところは放棄していません。マルクス主義に代わり「中国の夢」を実現するためならどんな言動も許されると考えています。

では「中国の夢」とはなにか? これについては講演録では触れていませんが、中国が譲れない国益として「核心的利益」を紹介しています。

「核心的利益」について、習近平はオバマ大統領に「核心的利益の相互尊重が米中関係の基本原則だ」と主張しました(2013年6月)が、問題は「中国の核心的利益は中国が定義している」ことです。

中国の核心的利益は、香港、台湾、ウイグル、チベット、南シナ海、東シナ海です。2007年に中国海軍高官が「太平洋をハワイで東西分割し、中国が西側を、アメリカが東側を管理することにしよう」とアメリカ太平洋軍司令官に提案しました。中国はインド洋も自らの管理下に置くつもりだったので、アメリカは当然拒否しました。

軍事力ではアメリカの軍事費や実戦経験では中国を圧倒していますが、東アジアの軍事力では、中国の軍事力が日・米・台湾の合計をはるかに上回っています。例えば戦闘機などの作戦機は、中国が日・米・台湾の合計の3倍を保有し、艦艇の保有数も2倍となっています。

この講演録を読むと、台湾有事があちこちで議論されていることが頭に浮かびます。中国の軍事的圧力に対して沈黙を守ることは台湾占領を消極的に支援していることになります。日本は断固とした対応をすべきと思いました。

また一方で中国は、ロシアのウクライナ侵攻に対する世界各国の対応を注視していることでしょう。ウクライナ支援のために世界各国が連携してロシアへの経済制裁等の対応をすることが、結果的には中国の専横に釘をさすことになるのではないかと期待しています。

最後に講師は、韓国問題について少々ふれています。「韓国から歴史問題などで非難されるたび、日本は謝罪し妥協的措置をとってきました。しかし、韓国はしばらくするとゴールポストを動かしてきます。この悪循環を断ち切らないといけません。国際常識から言えば、日本はもう十分に補償しています。今後、韓国が問題を蒸し返しても、その問題は政府間で解決済みなので蒸し返すべきではないと毅然と言い続けるべきです」 

そうですよね。なんでも話し合いで妥協すれば国際平和や秩序が保たれるわけではないのです。平和主義者のみなさんには受け入れられないでしょうけど。

飛行機が堕ちれば君への遺書となる葉書き書きおりスペインの野に(俵万智)

2022年5月10日 (火)

甑島への日帰り旅行 島内一周に挑戦してみた

今年の5月の大型連休中は、妻と甑島にでかけました。鹿児島県内最長の橋である甑大橋をみたことがないことと、下甑島にはでかけたことがないので、早く見てみたいというのが理由です。

川内港を午前8時50分発の高速船に乗船。舳先(へさき)の座席に座ったのですが、波が1メートルほどあったことで上下に揺れました。どうやら舳先ほどよく揺れるようで常連客は争って後方に座っていました。知らない私は空(す)いていた舳先に座ったのですが、まあしょうがない。周囲の幼い子どもたちは気分が悪くなったようで、あちこちでゲロってました。私と妻は船内の甑島観光のビデオを見て過ごすことができましたからいいんですんけど。

さて、午前9時40分に上甑島の里港に到着。レンタカーの手続きをしてから、下甑島の最南端の集落である手打に向かいます。途中、中島、中甑島を経由。甑大明神の隣にある甑大明神橋、アーチが連続する鹿の子大橋、そしてお目当ての甑大橋を渡ります。甑大橋はそれぞれの島のトンネルと直結。甑島が断崖絶壁の島であることの証明ですね。トンネル、橋、トンネルが連続しているなんて、めったに体験できませんよね。

午前11時に手打に到着。手打漁港脇にある「てうちん浜や」で昼食をとることにしました。外見はきれいな建物なのですが、物販はなし。メニューもカレー、ちゃんぽん、唐揚げ定食など、甑島らしさがまったくない。

かろうじて刺身定食(1700円)がありました。紙に汚い手書きで刺し身が石鯛、赤イカなど5種類ほど。私はこれを注文しました。

刺身定食はほどで出てきましたが、紙に書いてある刺し身とはまったく別の魚。盛り付けも汚い。そして妻が注文したカキフライ定食は私より15分ほど遅れて出されました。カキフライは高温で長く揚げたのでしょう。衣はかたく、中はぱさついていました。

厨房はおっちゃんがひとりだけのようで、ホール担当も高齢のおばちゃんがひとり。私がいたときのお客さんの数は10人ほど。ふだんはお客がいないからこういう体制なんでしょうか? 「仏作って魂入れず」というか、立派な建物を作っても、そのなかで働く人がいいかげんだと「もう一度いってみたい」という気持ちになりませんね。残念ですが。

正午になって手打の武家屋敷をクルマで通過。その後は北上して青瀬にある滝、島の西側にある瀬々野の展望台からナポレオン岩を望み、長浜にもどってからはあちこちの展望所によって北上。

午後2時に中甑港に到着しました。「観光船かのこ」の出港時間にぎりぎり間に合いました。この日は波があったようで東海岸のクルーズ。うみねこへの餌やり体験など、普段はできないことができて満足できました。

午後3時に帰港。港にある「コシキテラス」は建物をきれいで「コシキバーガー」などのオリジナルメニュー、しゃれたお土産品も陳列されていて、店員も若くて元気がありました。お昼を食べるならこちらがよかったなあ。

このあとは上甑島を北上して長目の浜をまわり、里トンボロ(島と島を結ぶ砂州のこと、天橋立のようなもので、函館が有名ですね)の展望できる道路をまわってから午後4時半にレンタカーの会社に戻りました。

里港の出港は午後5時10分。午後6時に川内港に到着。帰りはほとんど揺れず、快適でした。

JR川内駅から川内港にはシャトルバスがあり、甑島島内には船の到着時刻に合わせて観光バスも運行しています。行政は本当によくやっていますね。あとは地元の観光関係者がどれだけがんばれるか。残酷なようですが、公共交通機関や道路、施設などの環境が整えば整うほど、能力がない人やホスピタリティ(おもてなしの心)がない人は言い訳ができなくなりますね。

箱根路をわが越えくれば伊豆の海や沖の小島に波の寄る見ゆ(源実朝)

2022年5月 9日 (月)

50歳からのシングルライフ(食事編)

今年の4月から妻が単身赴任。娘たちはすでに巣立っているので、50歳になって久しぶりに一人ぐらい生活を始めることになりました。

過去の単身生活は寮生活がほとんどでした。大学生だった4年間はアパートに一人暮らしだったのでそのときは自炊でしたが、休日におでんやカレーなど簡単な料理を作る程度。食事のほとんどは学食利用か部活仲間との外食でした。

当時と違うのは食べる量。とにかく20代の頃は食欲旺盛で一度にご飯を2合食べていました。それからすると今は当時の半分以下。かといって食事を抜きすぎると栄養失調になってしまいます。そこで次のような毎日を過ごすことになりました。

まずは下ごしらえです。ご飯(玄米)は一度に3合炊いて1食分づつタッパーに詰めて冷凍保存。みそ汁のだしはいりこだし。5尾を1リットルの水筒にいれて水出しにしておきます。みそ汁の具材となる人参、大根、キャベツなどの根野菜は薄切りに、葉物の野菜、きのこ類などは一口大に切って冷凍保存。うすあげも千切りにして冷凍。ネギの細切れも冷凍。このほかに乾燥わかめを用意しておきます。

朝は、タッパーのご飯を電子レンジで温め、納豆と生卵、亜麻仁油、あごだしの素をかけていただきます。みそ汁は冷凍している具材を2,3種類鍋に入れて、いりこだしの水を200ミリリットル注いで温め、味噌をいれてできあがり。つけものがあればそれを出します。簡単ですね。

お昼は食パン1枚に、バター&はちみつ、ジャム(ブルーベリー、マーマレード、りんご)を日替わりではさむだけ。食パンは冷凍しているので、朝のうちに凍ったまま半分にきってジャムなどを挟みラップで包んでできあがり。これを会社で食べます。飲み物は職場においているリプトン紅茶のみ。簡単ですね。

夜はご飯やみそ汁はたべません。おかず一品のみ作ります。肉か魚を一人分に、野菜をいくつか組み合わせて、その日の気分でメニューを決めます。これに焼酎のお湯割りを1杯。漬物があればそれを添えるだけ。調理時間は20分以内。簡単ですね。

夜はそもそも作らずに外食で済ませることもあります。仕事帰りに居酒屋などに立ち寄って、焼酎を1杯にお通しと料理を一品注文するだけ。ボトルをキーブしているので1回あたり1千円程度です。簡単ですね。

こういう食生活が1ヶ月続いていますが、体調に変化はなく、食材を腐らせることもありません。

しかし、このゴールデンウイークに妻が帰ってきました。大量に食材を買ってきて冷蔵庫に入れています。私一人では食べ切れないというのに。あーあ、マイペースでできない一人暮らしって難しい。こっちをなんとかしないといけないですね。

よれよれのわが晩年のとある日の朝餉(あさげ)に割れる卵黄(らんおう)の艶(つや) (濱口忍翁)

2022年5月 8日 (日)

ストリートピアノ演奏旅行(薩摩川内市)

先月、JR川内駅の西口にある「SSプラザせんだい(川内駅コンベンションセンター)」で会議がありました。この建物の2階にある会議室を使用したのですが、この2階のフロアに「クリスタルピアノ」が設置されていました。

クリスタルピアノは文字どおり、鍵盤蓋、屋根、突上棒、側板、脚柱がアクリル樹脂で作られたグランドピアノ。普段なら黒い木で構成されている部分がガラスなので、中のピアノ線や鍵盤の動きをまるまる見ることができます。

ピアノの上には「使用上の注意」が記載されたお知らせが置かれていました。会議やイベントがあるときはピアノ演奏は不可とのこと。

どうしてもこのピアノを弾きたくなった私は、この大型連休にもう一度訪ねてみました。

午前9時の開館直後に1階窓口に行くと「今日は午前中会議がありますので、ピアノの演奏は午後以降でお願いします」とのこと。そこでおれんじ鉄道であちこちぶらついて、午後7時半に再び窓口に行きました。

窓口では演奏希望者に対して、氏名、年齢、性別、連絡先(携帯電話の番号)を記入するよう求められました。また、ピアノの屋根は閉じたままで演奏してください、演奏時間は30分を限度、との注意がありました。

2階のフロアには誰もいません。私は鍵盤蓋を開け、「戦場のメリークリスマス」、ケツメイシの「さくら」、宇多田ヒカルの「One Last kiss」を弾きました。

それにしてもこの鍵盤、そしてペダルの重いこと。力をいれて鍵盤やペダルを押さないと思うような音が出ません。一番最初に弾いた「戦メリ」はペダルの踏み方が不十分だったために音響がなく、ぶつりぶつりと音が途切れる無様な演奏になってしまいました。そこで「戦メリ」を最後にもう一度演奏して満足できました。

このあと、そのまま川内駅の新幹線乗り場に向かいました。改札口から10メートルほど中に入ったところにアップライトピアノが置かれているのです。こちらはアップライトだけどグランドピアノのような音がでるとの謳い文句が。メーカーはグランフィール。

私の後ろを駅の利用者がぞろぞろ通るなか、ピアノを演奏しました。その鍵盤の軽いこと、クリスタルピアノとは雲泥の差です。あまりにも軽くて「これ、鍵盤が壊れているのかな?」と思ふほど。もちろんそんなことはなく、音はきちんとでていました。メーカーの解説を読むとアップライトでは鈍い鍵盤の戻りがグランドピアノ並みに早いので連打などで差が出るようです。

ところでこの日はクリスタルピアノと駅ピアノのふたつで演奏したのですが、どちらも周囲の人たちからは拍手なし。受付のお姉さんも私の演奏に対するコメントなし。どうやら拍手やコメントに値(あたい)しない演奏だったみたいです。もっと腕を磨いて、周りをうならせたいですね。

ちなみにクリスタルピアノの値段を調べてみると750万円(税抜)。値段もすげえや!

君は些細(ささい)な花びらを受け礼を言ひ洋琴(ピアノ)を勧め酒をそと置く(紀野恵)

2022年5月 7日 (土)

「新しいがん治療の時代の夜明け ウイルス療法」を読む

令和3年6月11日、日本初のウイルス療法薬「G47⊿(デルタ)」の製造販売が承認されました。脳腫瘍に対するウイルス治療薬としては世界初のことです。

ウイルス療法とは、ウイルスを用いた新しいがんの治療法のことです。ウイルスががん細胞だけで複製して正常な細胞では複製しない。そういうウイルスを遺伝子組み換え技術で人工的に造り、ウイルスそのものを薬として使います。

ウイルスをがん細胞に感染させると、そこでウイルスが増える。増えたウイルスが一斉に細胞外へ散らばる際に宿主となっていたがん細胞は物理的に破壊される。散らばったウイルスは再び周囲のがん細胞に感染する。このサイクルを繰り返し、がんを治療するのです。

がん細胞においてウイルスがよく増えることは、がん細胞の特性として昔から知られていたようです。1971年に発行されたランセット誌には、麻疹ウイルスに感染したらがんが治ったという症例報告が掲載されています。

今回承認されたG47⊿はがん幹細胞を含めて、すべてのがん細胞を根こそぎ殺すことができます。がん幹細胞とは、細胞一つからでも缶をまるごとつくることができる細胞です。これまでのがん治療法(化学療法、放射線療法)ではこの幹細胞を完全に殺すことができなかったため、がん幹細胞が再発や転移の原因とされていました。そういう意味では、今回のG47⊿は画期的な治療法です。

しかも、気になる副作用は、免疫反応に伴う発熱や腫瘍の腫脹(からだの器官や組織がはれあがること)など限定的というから素晴らしい。

しかしながら、論者である藤堂具紀氏によると、ワクチン効果は個体差が大きいため、臨床現場での対応が今後の課題だとのこと。医学が進んでも、未解明の部分(遺伝的な体質など)があるということなんでしょうね。

ウイルスといえば連想するのは悪者ばかりですが、それを治療薬としてしていることに違和感を覚えるひとも多いことでしょう。しかし、元来、薬は毒です。「毒をもって毒を制す」なんて言葉もあるでしょう。これまでのがん治療法の化学薬品、放射線も、使い方を間違えると健康を害することになるのはみなさんもご承知のとおり。医者がすべて正しいとは思いませんが、医学の進歩を受け入れるところを受け入れないとね。

もゆる限りはひとに与へし乳房なれ癌(がん)の組成を何時より知らず(中城ふみ子)

2022年5月 6日 (金)

50歳からのシングルライフ(掃除編)

「男やもめに蛆がわき女やもめに花が咲く」といいます。妻が出ていって今年の4月から一人暮らしを始めた私ですが、とにかくうじだけはわかないように、掃除だけは気をつけています。

妻と一緒に暮らしていたときには、週末にルンバを作動させて各階を掃除し、階段は携帯掃除機できれいにしていました。トイレと洗面所の掃除は妻任せ。お風呂は最後に入浴した人が浴槽を洗うことにしていました。食器類は食洗機で自動洗浄。共働きだけにかなり手を抜いていました。

しかし、一人暮らしだと妻に任せるわけにもいかず、一軒家の掃除を一人でするのも大変。生活するスペースも狭いので、掃除する範囲も狭くすることにしました。

ルンバはこれまで同様週末に作動。お風呂は浴槽にお湯をためるのをやめてシャワーオンリー。だから浴槽の掃除はせずに最後にお湯をかけるだけ。洗面所やトイレは一日ごとに陶器部分を洗剤で洗います。携帯掃除機は妻が転居先に持っていったので、階段などは雑巾で拭くことにしました。

レンジまわりは毎日アルカリイオン水をふきつけてふきんで拭き取り。食器は自分のものだけなので、食洗機は乾燥機として使うだけで原則手洗いに。

このほか、食洗機やプリンター、炊飯器の位置を使いやすいように変えたりして、ちょっとづつですが、家の中がスッキリとしたしつらえになってきています。一人暮らしモードというところでしょうか。

しかし、妻が帰ってくるとそうはいかない。妻はあれこれ私に指示してしつらえを元に戻し、掃除のやり方も元のとおりにしようとします。あーあ、これだからこまるんだよなあ。

雨の県道あるいてゆけばなんでしょうぶちまけられてこれはのり弁(斉藤斎藤)

「空飛ぶクルマ開発最前線と実現に向けた課題」を読む

プロ野球が開幕して1ヶ月が経過しました。北海道ファイターズの新庄監督が本拠地開幕戦において空飛ぶバイクにまたがって登場しました。新庄報道は最近落ち着いてきましたが、「空飛ぶ」メカの開発は今どうなっているのでしょう?

中野冠氏の標記小論によると、世界では300から400の企業が空飛ぶクルマの開発を進めていて、すでに多くの企業が試験飛行に成功しているようです。

しかし、これらの企業が開発を進める大きな難関が資金調達。アメリカや中国など、空飛ぶクルマを軍事技術とみなしている国は政府が援助していますが、日本の防衛産業はリスク投資を回避する傾向にあり、日本の投資家も二の足を踏んでいることが多いようですね。

現時点で、800億円調達可能と言われているのは、技術的に最も進んでいると言われているジョビー・アビエーション社(アメリカ)のほか、マーチャー・アビエーション社(アメリカ)、リリウム社(ドイツ)、ヒュンダイ(韓国)の4社のみ。

調査機関であるルフトハンザ・イノベーション・バフ社の発表では、空飛ぶクルマの全世界の年間販売台数予測は、2020年代は1万台以下、2030年代は20万台以上、2040年代は800万代以上、2050年代は6000万代以上とあるので、前途洋々といったところでしょうか。

論者の中野氏は「6000万台という数字は、2000年頃の全世界の自動車の年間販売台数なのに、ここまで伸びるかは疑問だ」と言っていますので、そこは眉唾(まゆつば)ものですね。

日本ではスカイドライブ社が日本政策投資銀行、NEC、伊藤忠などが出資し、大阪府、福島県、三重県が技術提携をしています。自治体が技術提携というのが違和感をおぼえるところ。なんで?

空飛ぶクルマの実用化は、日本ではまだまだ先になりそうです。何しろスカイドライブ社の試験は、日本政府が基準をつくっていないために、巨大な檻(おり)の中でしか認められていないというんですから。

世界的にみても、実用化にはまだ検討すべき課題があるようです。例えばヘリコプターが普及しないのはアメリカでは騒音、ヨーロッパではのぞきの問題がクリアされていないからです。空飛ぶクルマも同じ問題がある上に、運賃、バッテリー性能の向上などさまざまな課題があるようです。

とはいえ、開発が進んでいるのは事実。論者の予測では、2025年に海辺の遊覧開始。2030年に救命救急医療、二次交通(空港から観光地へ)の実用化。2035年に自家用・社用が出現。となっています。

私は空飛ぶクルマには興味は惹かれませんね。下から眺めるだけで一生を終えそうです。

着陸の飛機に迫りぬ大花火(友井正明)

2022年5月 5日 (木)

「東証市場の区分見直しの展望」を読む

学士會会報(第952号)掲載の小論「東証市場区分見直しの展望」(神田秀樹)を読みました。

論者の神田氏は知る人ぞ知る会社法の大家。そういう人が東京証券取引所の改革を論じていることに軽い驚きがありました。

さて、小論の内容です。

東証株式市場の区分は、以前は「市場第一部」、「市場第二部」、「マザーズ」、「ジャスダック」の4つでした。私の理解では「一部」は一流企業、「二部」は実力はそこそこで知名度が低い企業、「マザーズ」は新興企業、「ジャスダック」は意味不明でした。

神田氏によれば私のこういう理解も当然というもの。そもそも東証市場の区分のコンセプトが曖昧だったため、二部とマザーズ、ジャスダックの位置づけが重複していたようです。また、一部も市場コンセプトが明確でないため、一部への昇格基準が、企業価値向上の動機づけの観点からすれば十分に機能していなかったと批判しています。

私が特に問題と感じたのは東証株価指数(TOPIX)。これはインデックスファンドとして今や多くの投資家から注目されていますが、TOPIXは東証一部の上場企業のすべてから構成されています。これが「グローバルにみても特異」なものになっているのです。

神田氏の話では、東証一部上場企業のなかには、収益、時価総額、流動性、経営体制、情報開示が低水準の企業も多数含まれているのです。TOPIXが一部上場のすべてを対象としているため、これらの低水準企業がインデックスファンドによって実態よりも高く評価される傾向にあるとのこと。これは公平ではありませんよね。

令和4年4月4日から、東証市場は「プライム」、「スタンダード」、「グロース」の3つに区分されて、それぞれが明確なコンセプトに基づいています。良い企業を正当に評価することは資本主義世界では大切なことですね。

私は20年前の金融ビッグバン以来、鹿児島銀行の日経インデックスファンドを毎月1万円購入していました。が、昨年やめました。この間、評価額は投資額の1.4倍となっていて十分に儲かったのですが、私はコロナ禍での株価上昇に納得できなかったのです。

今回の東証改革の恩恵を私は受けることはなさそうです。

塔上の柘榴(ざくろ)熟(う)れるはいつならむガウヂの夢の聖家族教会(サグラダファミリア) (松下鎮)

2022年5月 4日 (水)

ストリートピアノ演奏旅行(熊本県:海のピラミッド)

おとといの5月2日月曜日、熊本県宇土市の海のピラミッドへでかけました。

鹿児島中央駅を午前7時21分発のJR川内行普通列車に乗車し、8時22分に川内駅に到着(950円)。

川内駅周辺を歩いたりして1時間弱時間をつぶしてから、9時22分川内駅発の肥薩おれんじ鉄道八代行普通列車に乗車し、11時53分に八代駅に到着(1日乗り放題:2800円)。

八代駅を12時9分発のJR鳥栖行普通列車に乗車し、宇土駅で三角行普通列車に乗り換え、午後1時26分に三角駅に到着しました(1130円)。

「海のピラミッド」は三角駅の目の前にあります。巻き貝のような外観をして高さは20メートルはあるでしょうか。とにかく異様なのでとても目立ちます。

ピラミッドの中は巨大な空間です。内壁と外壁にそれぞれ螺旋階段があり、頂上には展望台があります。1階にはトイレや観光グッズを置いてある売店がありますが、なにより1階フロアのど真ん中にピアノが設置されているのが最大の目玉。今回の旅行の目的です。

おばちゃんが楽譜を見ながら「上を向いて歩こう」をたどたどして弾いていました。20分ほど待ちましたが終わる気配がないので、隣接する物産館に寄って昼食を食べることにしました。

「あいランド食堂」で塩辛い「豚肉トロトロ定食(700円)」を食べてから戻ると、ピアノのおばちゃんはまだ居座っていて、おっちゃんが「サンタ・ルチア」を歌っていました。おっちゃんは気持ちよく歌ってはおばちゃんと話を続けるので、私もとうとう我慢の限界。

「私もピアノを弾いていいですか?」と割り込みました。おばちゃんはピアノを譲り、おっちゃんが「(途中で割り込むぐらいなんだから)相当上手なんだろうな」とプレッシャーをかける一言を言い放って、そばでじっと見ています。

私は「戦場のメリークリスマス」を弾いたのですが、左手が細かく震えます。これまでも度々こういうことがあったのですが、この日は極度に緊張していたのでしょう。途中で楽譜が思い出せなくなり、演奏を中断しました。

そこで次にケツメイシの「さくら」を弾くことに。これなら左手の動きは単純なので震えていても手首の力で演奏ができます。ミスタッチが何度もありましたが、こちらは最後まで弾くことができました。

午後2時44分の帰りの列車に間に合わせるために、すぐにピアノから離れましたが、こんどはおっちゃんが上手にピアノ演奏を始めていました。

帰りは往路をそのまま逆にたどり、鹿児島中央駅に到着したのは午後8時40分。これだけ長い時間列車に乗るとさすがに疲れました。それにしてもピアノでミスっただけでなく、演奏を中断したのは大失敗。悔いが残りました。いつかリベンジしたいですね。

青春はみづきの下をかよふ風あるいは遠い線路のかがやき(高野公彦)

2022年4月17日 (日)

自動運転の実用化の最大の問題は「トロッコ問題」?

現代ではAIの進化によって、自動運転技術の実用化が間近となっているかのような印象があります。イーロンマスクは「来年は実用化する」と毎年発言しています(そう、毎年だったんです)が、実用化はまだみたいですね。

人間はロボットには完全無欠を求めます。日本では交通事故で年に3000人もの方が亡くなっていますが、自動運転になればこの死亡者数は激減するでしょう。にもかかわらず、自動運転が1件の障害事故を出してもと大騒ぎ。自動運転(ロボット)には絶対に事故を起こさない技術を求めているのが人間なのですね。

しかし、どうしても死亡事故を避けられないケースがあります。

例えば法定速度50キロで走行中、突然子どもが飛び出してきた。急ブレーキでは間に合わない。子どもを助けるためには対向車線側にハンドルを切るしかないが、対向車線は大型ダンプが法定速度を大幅に超過したスピードで走行していて、正面衝突となったら私(運転手)は即死する可能性が高い。ではどうする?

倫理学の問題に「トロッコ問題」があります。無人のトロッコ(路面電車)が暴走。このままでは線路上の5人をひき殺してしまう。線路の分岐点にあなたはいる。分岐点の操作をすればトロッコは別の線路を走行するので5人は助かるが、今度は別の線路にいる1人をひき殺してしまう。あなたはどうすべきか?

功利主義者の立場では、数量で考えるので5人を救い、1人が犠牲となることを選択します。助かる命が多いからという単純な理由です。しかし、人の命は平等と考えると、本当にそれでいいの? ってなりますよね。ハリウッド映画ではよく、こういうシチュエーションでどちらも助けるヒーローが出現して問題を解決しますが、自らの現実に置き換えると簡単ではありません。

そもそも、トロッコの暴走で5人死亡であれば事故(私は無関係で済んだはず)だったのに、分岐点の操作(線路の切り替え)は私の意志。分岐点を操作したばかりに殺人の疑いがかかります(刑法上は緊急避難が成立すると思いますが)。

この「トロッコ問題」をどう解決するかという問題を自動運転技術は抱えています。

この状況にどういう選択をするかの研究(Bonnefon,Shariff and Rawhan ”Delemma of Auronomous Vehiecles" 2015)があります。それによると、ほとんどの調査参加者は、そのような場合には自動運転車は所有者の命を奪うという代償を払ってさえ、その子どもを助けるべきだと回答しました。

いやあ、人間って素晴らしいですね。

ちなみに、この調査には続きがあります。では、あなたはそのようにプログラムされた自動車を買いますか?

大半の参加者はこの質問にノーと回答したのです。

いやあ、人間って本当に偽善が好きですね。この、人間は偽善的動物だという現実を受け止めることが大事なんだって、私は思います。

意思表示せまり声なきこえを背にただ掌の中にマッチ擦るのみ(岸上大作)