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2020年7月19日 (日)

「戦争は戦術がすべて」を読む

「戦争は戦術がすべて」(木元寛明)を読みました。

監修は元陸上自衛隊・戦車連隊長との肩書き。この監修というのがくせ者です。おそらく,無名の作家の卵や軍事記者などが執筆したものを,監修者がチェックした(あるいは読んだだけ)というパターンなのでしょう。有名人を著者にしないと本が売れないという事情があるからかもしれませんが,ごまかしているみたいで嫌ですね。

さて,本書の内容についてですが,私にとってはまったく物足りないものでした。「世界史を変えた名戦術30」との副題があるのに,個々の戦術の記載はごくわずか。30の戦闘について背景や後日談まで無理やり詰め込んでいるので肝心の戦術のくだりがほとんどないに等しい。

例えば「兵力の節用」をテーマにした章では,太平洋戦争における日本軍の絶対的国防圏が紹介されていました。もちろん,悪い例としての紹介です。

日本の国力以上に進出したために兵力が分散し,連合国に各個撃破されたとあるのですが,ではどの程度兵力が分散していたかとなるとデータがありません。私の記憶では日本軍は300万~600万人で,そのほとんどは中国大陸にいたと思うのですが,いつの時点で,どのエリアにどういう戦力が配置されていたのか,そのような記述はありません。

本書には「日本の海外戦略は満州国から始まり,連合国に宣戦布告してからはフィリピン,マレー半島,ジャワ島,スマトラ島を押さえて南方の資源を確保。この後は,アメリカとオーストラリアの連携を遮断するために,ソロモン諸島に進出してガダルカナルの消耗戦へと突入する」といった太平洋戦争の流れがあるだけ。わかったような気になる人もいるかも知れませんが,それを証明する基礎データがないために,兵力分散を批判するだけの説得力を完全に欠いています。

日本人は攻撃は得意だったが防御は苦手だったという説をよく耳にします。零戦は運動性や攻撃力を重視したために防御機能がおろそかになったことは象徴的だと。でも一方で,最近は戦国時代の日本の城がよくテレビ番組で放送されていますが,これらの番組をみるといかに日本人が難攻不落の城をつくってきたのかがよく分かります。

私が中学生・高校生の頃,太平洋戦記を読んでいて不思議に思っていたのが,どうしてアメリカ軍が反転攻勢をするまでの間,太平洋諸島を要塞化しなかったのだろうか? ということです。レイテ決戦は守備範囲が広いので要塞化は無理でしょうが,サイパン島やペリリュー諸島などは要塞化するだけの時間もあったのではないかと思うのです。本格的に要塞化したのは硫黄島ぐらいです。それまで日本軍は占領地域で遊んでいたんでしょうか。

残念ながら,そういった記述は一切ありません。日本陸軍の主戦場は中国大陸だったため,陸軍のほとんどは中国大陸に張り付いていて毎日ゲリラ掃討ばかり。太平洋諸島にはアメリカ軍が来襲する直前に中国から引き抜かれて配備されたために準備が整わなかったというのが実際のところだと思うのですが。

ちなみにこの本はカラーで印刷されていて新書なのに価格も高い(1000円。税抜)です。太平洋戦争やベトナム戦争などについてまったく知識のない初心者には入門書としていいかもしれません。私は本を最後まで読み通しましたが,読む価値がないことがわかったことだけが収穫でした。

日曜はすぐ昼となる豆の飯 (角光雄)