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2022年8月22日 (月)

「バイデン米政権と中東(冷徹な現実主義の前景化)」を読む

池田明史氏の「バイデン米政権と中東(冷徹な現実主義の前景化)」を読みました。

以下はその要約です。

バイデン政権は2021年8月末までにアフガニスタン駐留のアメリカ軍部隊をすべて撤退させました。撤退の方針はバイデン政権が新たに策定したものではありません。アフガニスタンをはじめ、イラクやシリアなど、内戦状態にある中東各地から可及的速やかにアメリカ軍部隊を撤退させるという基本政策はオバマ政権時代にすでに構想されていました。

その背景には、台頭する中国の膨張路線に対抗するためにアジア・太平洋方面への戦略的重心の遷移(リバランシング)の必要性が強く認識されていたこと、泥沼化する中東各地の内線でアメリカ軍の犠牲が蓄積されたこと、技術進展によってシェールガスの採掘と商業生産がアメリカ国内で可能となり中東原油の資源価値が大きく相対化されたことがあります。

中東ではもう一つの動きがあります。それはイスラエルとアラブの関係正常化です。

トランプ時代にイスラエルとは「史上最良」と呼ばれるほどの関係になります。当時のネタニヤフ・イスラエル首相はトラン不大統領とは古くからの友人で家族ぐるみの付き合いをしていました。このトランプ大統領からネタニヤフへの最大の外交的プレゼントが、アラブ穏健派諸国とイスラエルとの関係改善の後押しでした。

イスラエルはエジプト、ヨルダンの間に和平条約を結び、パレスチナ開放機構とも相互承認を交わしていますが、その後20年以上、他のアラブ諸国とは関係が改善しませんでした。

しかし、2020年後半になって、UAE、バーレーン、スーダン、モロッコが次々とイスラエルとの国交を樹立・回復します。アラブ世界においてパレスチナ問題は大きく相対化され、いわゆる「アラブの大義」は空洞化したのです。

中東・北アフリカにおいて「イスラエルの殲滅」を呼号し続けているのは非アラブのイラン・イスラム革命体制だけになりました。

バイデン政権の中東政策は、バイデンが呼号するような理念外交とは切り離された冷徹な現実主義に貫かれています。

ここからは私の意見です。

最近はウクライナ情勢に注目が集まり、シリア内線(イスラミック・ステイト)に対する関心が大きく低下しました。これは日本のマスコミがアメリカ追従であることの、なによりの証拠にほかなりません。アメリカがシリアを含む中東への関心を低下させたため、アメリカのマスコミの注目も中東から別の地域へと転じているからです。

最近の台湾をめぐるアメリカの動きは歴史的転換を示しています。従来は台湾を助けるのかについて態度をはっきりさせない「あいまい戦略」をとってきましたが、バイデン大統領が日本を訪問したときには会見で「台湾を救う」ことを明言して物議を醸しました。また、アメリカ下院議長のペロシが台湾を訪問し、これに怒り心頭の中国が台湾周囲で軍事演習を繰り返しているのは、みなさんが報道でよく知るところです。

これに対して日本の報道はどうでしょう。沖縄や馬毛島の基地反対の住民を取材して、態度がはっkりしないあるいは政府よりの首長を批判するばかり。中国の脅威に対してはまるで存在していないように扱っています。安全保障に対して日本はどうすべきかをおなざりにしていることを平和ボケといいます。マスコミは自分自身が平和ボケしていることに気づいていないのが滑稽ですね。

三日目のおでん温め書に耽る(山戸暁子)

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