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2022年8月21日 (日)

「日本外交の課題」(谷内正太郎)を読む

外務官僚で初代国家安全保障局長だった谷内正太郎(やちしょうたろう)氏の講演録「日本外交の課題」を読みました。とはいえほとんどは中国問題でした。以下は要約です。

ハーバード大学のグレアム・アリソン教授は「トゥキュディデスの罠」という言葉を提唱しました。アテネとスパルタの覇権争いのことです。教授によると「トゥキュディデスの罠」に相当する対立は過去500年間で16回あり、そのうち12回は戦争に発展しました。現在の米中関係もこれに相当する宿命的な対決と言えます。

アメリカはもともとは中国に好意的でした。清がアヘン戦争に負けて「屈辱の100年」を過ごしている間も常に同情的。戦後は鄧小平の改革開放を支持し、「中国は経済発展を遂げれば民主化し、人権を尊重する国になる」と期待。それだけにアメリカは「中国に裏切られた」という気持ちが強い。

今や中国は尊大となり、国際会議の場で小国が中国と相容れない意見を述べると「小国の分際で偉そうなことを言うな」と露骨に言います。

今の中国共産党はマルクス主義を信じていません。中国共産党は中国の夢(小康国家:それなりにゆとりのある社会、そして社会主義現代化強国)の実現のためならどんな言動も許されると考えていません。

トランプ大統領のときに始まった広範囲に渡る高額の関税は現在も維持され、バイデン政権は相互依存を深める米中の経済を切り離す「デカップリング」を進めています。しかし、デカップリングを受け入れているのはアメリカ企業の1割に過ぎず、米中対立が激化しても、両国経済のデカップリングは進むとは限らないようです。

中国は積極的に海洋進出をしています。2007年に、中国海軍高官が「太平洋をハワイで東西分割し、中国が西側を、アメリカが東側を管轄することにしよう」とアメリカ太平洋軍司令官に提案しました。ここで注意が必要なのは、インド洋も中国の管理下に置くつもりだったことです。アメリカは当然に反発しました。

中国は第一列島線(九州、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島)を2010年までに掌握し、第二列島線(伊豆諸島、小笠原諸島、グアム、サイパン、パプアニューギニア)を2020年までに掌握することを目指しました。さらに南シナ海、マラッカ海峡、インド洋、ペルシャ湾に至る要衝に拠点を整備し、港の経営権を握る「真珠の首飾り」戦略をとっています。

一方で「一帯一路」戦略にも着手し、中国西部から中央アジアを経てヨーロッパに至る陸路(一帯)の国々と、中国沿岸部から東南アジア、アラビア半島、アフリカ東海岸に至る海路(一路)の国々に計1兆ドルの資金を貸付けて大規模インフラを建設しています。

中国はよく核心的利益を表現しますが、この利益は「香港、台湾、ウイグル、チベット、南シナ海、東シナ海」ですが、今後も拡大する可能性があります。

現在の中国のGDPはアメリカの7割ですが、2028年にはアメリカを追い抜き、2035年には中国と香港のGDPは日米のGDPを上回ると予想されています。中国はドローン、量子暗号、5Gなどで世界最高峰の技術を持っています。

しかし、軍事力ではアメリカの軍事費は中国の3.2倍で、実戦経験でも中国を圧倒しています。空母はアメリカが20雙、中国は2雙しかありません。ただし、東アジアに限定すると中国の軍事力は日米台湾の合計を遥かに上回ります。

日本には、超大国を目指すという道はありませんが、小国として慎ましく生きていくという選択肢もありません。国力を磨き、国会師を明確にして国益を守り、国力に応じた範囲で国際社会に貢献し、差mざまな分野でリーダシップを発揮することです。

国益を守るということは、国民の生命と財産を守る安全保障であり、日本の歴史・伝統・文化・精神を守り育てることであり、自由・人権・民主主義・法の支配など、普遍的な価値にコミットすることです。

台湾有事については、日米が中国の軍事圧力の高まりを黙認すると、中国は間違いなく武力で台湾を占領するでしょう。台湾人の6割は、「台湾有事の際、日本は助けに来てくれる」と回答しています。日米が「台湾有事のときには必ず台湾のために行動する」ということを中国に認識させることが重要で、そのことが抑止力になります。日本の自衛隊は戦闘するよりも、アメリカ軍の後方支援が期待されるのではないでしょうか。

冬の月シベリヤ語る父はなく(石見みつを)

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