一度も話をしたことのない片想いの女性の名前を30年後も覚えている
学生時代のこと。講義にでていた私はいつもおなじ席に座っていました。そして、私の近くにはいつも同じ女子学生が座っていました。
小柄でちょっとぽっちゃりしていましたが、肌が白くて欧米とのハーフのように堀が深く、私はとても彼女が美しいとおもっていました。そういうわけで、私は講義の合間には彼女の横顔を眺めていました。
そんなある日のこと、彼女が耳にピアスをしていないことに気づきました。彼女は普段仁丹のような白く丸いピアスを両耳につけていたのですが、この日はなし。「珍しいな」と思いつつ、いつものように彼女を見つめていました。
10分の休憩時間を挟んで、講義が始まりました。彼女が席に戻ったとき、彼女はいつもの白いピアスを両耳につけていました。私と彼女はまったく面識がないのに、私は「彼女がピアスをつけてきたのはきっと私を意識しているからだ」とひとりよがりのことを想像していました。今思うとストーカーみたいですね。
それからしばらくして、私が彼女に気があることを同じ大学の男友だちに話しました。その友人は興味津々。私は彼にお願いして私が彼女に気があることを伝えてくれと頼みました。友人はおもしろがって引受け、数日後、私の約束を果たしたことを教えてくれました。「彼女はなかなか美人じゃないか」といってくれたのを覚えています。
しかし、それから彼女と会話どころか会った記憶すらありません。講義が終わったからなのか、私が講義をさぼるようになったからなのか。彼女はまじめだったので彼女が講義を休むことはなかったはず。いまととなっては確認のしようがありません。
友人は彼女の名前を聞いてくれていました。「まほみ」。それが彼女の名前でした。私にもうちょっと勇気があれば、もっとたくさんの思い出ができたでしょうに。
対岸をつまずきながらゆく君の遠い片手に触りたかった(永田紅)
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