選挙ってなんだろう? 教えるものではないよね、結局のところ。
講演録「衆院選総括と政局展望」(大石格)を読みました。
講師の大石氏は日本経済新聞社の上級論説委員兼編集員です。ベテラン政治記者として、2021年の衆院選を振り返ったものです。
講師は、「政局を左右するのは、政治家同士の好き嫌い」という人間の本質に強く関心をもっていて、政治はこうあるべきだという話題にはほとんど関心がありません。政治や選挙は「面白いのがいちばん」と考えている、代表的日本人です。
今はAIやビッグデータ分析などによる選挙予測が流行しているようですが、講師は「実際に現場に足を運び、徴収の熱量や反応を肌で感じることこそ重要」と主張します。たしかに、小泉純一郎が総裁選に打って出たときの国民の熱狂(本当に狂っていました)はすさまじかった。ワイドショーが政治の話題を取り上げるようになったのもこのときからでしょう。「政治=スキャンダル」としかみていなかったワイドショーが変わりましたね。理由は当然、視聴率がとれたからです。
マスコミが世論調査をよく発表していますが、実際の選挙結果とは乖離があります。なぜなら、衆院選は小選挙区制だからです。比例代表であれば、支持政党に投票するし、いわゆる無党派層は世論調査を反映することもあるでしょう。しかし、議席の多数を占める小選挙区制は違います。
小選挙区制では、得票率が51対49でも、議席は100対0になるかもしれない制度です。ところがマスコミ報道はしばしば、二大政党制とは「議席数」が51対49になる制度と勘違いしています。本当にアホですね。
衆院選前、マスコミは「立憲民主党が伸びて大接戦となる。自民は過半数割れし、岸田首相の退陣もありうる」と喧伝しました。しかし、結果はご承知の通り自民圧勝。するとマスコミは手のひらを返したように「立民大敗」「共産党との共闘は失敗」と騒ぎました。講師によればこの馬鹿騒ぎは「マスコミが自分たちの予想が外れたバツの悪さをごまかすために、必要以上に野党共闘のせいにしている感がある」と断じています。
たしかに、選挙特番の前に「今回の選挙では与野党の議席数は大きく変動することはないでしょう」なんていったら、視聴率がとれなくなるでしょう。真実を隠したいわけです。さすが「真実の追求」を看板にするマスコミですね。「看板」だけだということがよくわかります。
マスコミの議席予想は出口調査をもとにしているのですが、最近は期日前投票が増加してきました。本来なら、正確な選挙結果を予測するために、期日前投票の出口調査をするはずですが、マスコミはそれをやりません。きっとそこまでするカネがないんでしょうね。
それにしても講師はざっくばらんに、選挙をめぐる人間の本性を述べています。有権者だって、政策を十分吟味してから投票する人は稀(まれ)で、大多数は「顔つきがよい」程度で決めているわけですからね。選挙は本当に人間臭いものです。これを「政策判断」なんてきれいごとをいっているから、世の中のことがわからなくなるのではないでしょうか。
結局のところ、この国を動かしているのは、理想・理論より下世話な人情なんですね。選挙や政治をきれいごとで教えるなんて、教えるほうがむなしくなるんじゃないですか?
フランスパンほほばりながら愛猫と憲法第九条論じあふ(荻原裕幸)
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