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2020年6月14日 (日)

新刊を次々出しても販売総額はどんどん減少 これこそ構造不況だった

私が中学生の頃は週刊ジャンプの販売部数が朝日新聞のそれを超えるかの勢いがありました。実家の本屋は非常に賑わっていたものです。当時は1日に200人を越えるお客がありました。

ところが大学生の頃から風向きが変わってきます。大型の郊外型書店が近所に出店し,コンビニエンスも次々と開店。雑誌の売り上げは激減し,一日の売り上げは私が小学生の頃に逆戻り。

大学卒業後,就職の内定がとれなかったことから,私はしばらくの間,実家で働いていました。しかし,いつも閑古鳥が鳴いていました。このままではいけないと思い,私は就職活動を始め,幸いなことに会社に就職することができました。

当時,売り上げが減少したのは競争に負けたからだと思っていました。それが「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」(橘玲)を読んで,私の認識が間違っていたことが分かりました。

いうまでもなく,本は定価販売です。1000円の本が1部(冊のこと)売れれば,出版社が700円,問屋(取次)が100円,本屋が200円を受け取るとします。本屋が10部入荷して6部が売れた場合,本屋の収入は200円×6部で1200円になります。6ヶ月後,取次は本屋に請求するので,本屋は取次に(1000円-200円)×6部の4800円を送金し,そして残りの4部は取次に返品します。すなわち,売れ残った4部は6ヶ月以内に返品すれば取次から請求されない仕組みになっています。

ところが出版社は違います。1000円の本を10部取次に送れば,翌月には7000円(700円×10部)を取次から受け取ります。そして6ヶ月後,本屋から取次に4部の返品があれば,出版社は2800円(700円×4部)を返金することになります。すなわち,それまでの5ヶ月間は2800円の仮払金(無利子融資)を受ける特典があるのです。この結果,出版社は仮払金をあてにした自転車操業を続けるようになっていきました。誰でも易(やす)きに流れるのです。

このような出版界の構造があるとき,出版社は次のような行動をとります。1 できるだけ本をたくさんつくる。 2 できるだけ部数を多くする。 出版社は独自の判断で新刊本の企画をすることができました。

取次は次のような行動をとります。3 返品率をできるだけ下げる。そして取次は過去の実績に基づいて本を出版社から何部仕入れるか決めることができます。そうなるとどうなるのか。

本屋からの返品が増えると取次は出版社から仕入れ数を減らします。出版社は仮払金(無利子融資)がないと経営が危うくなるので部数を増やす(仮払金をたくさん受け取る)ために新刊本を発行するのです!

これを読んで「はた」と思い当たりました。私が本屋で働いていたとき,恐ろしいほどの新刊本が出版されたのです。そして雑誌も驚くほど種類が増え,とくにエロ本の新刊や創刊号が次々と本屋に届くのです。

出版業界に詳しくない人は知らないでしょうが,新刊本や雑誌の創刊号は取次が独自の判断で本屋に送りつけるのです! 本屋はそんな新刊本をとりあえず書棚に置こうとしますが,じゃんじゃん本の種類が増えてくるとスペースが足りなくなる。そうなると新刊本が届いても,これは売れないと本屋が判断すればその日のうちに全部返品します。そうなると返品率がさらに跳ね上がります。

当時の私は,本の販売部数と本の種類が反比例しているのは知っていましたが,これは消費者のニーズが多様化したからだと思っていました。しかし,真相は自転車操業状態にあった出版社の苦肉の策であったのですね。

情報化社会の現代,私はこの事実を20年経ってから認識でいました。いかに情報に疎(うと)いことか。私の両親はこんなことはつゆほども知らないことでしょう。最近はお客さんの来店は1日に10人もありません。その一方で,近所の大型の郊外書店は次々閉店。コンビニも開店と閉店を繰り返しています。出版業界の構造不況であればさもありなん。でも実家は今でも存続しています。それって実はすごいことなのかも。

トロウという字を尋ねれば「セイトのト,クロウのロウ」とわけなく言えり (俵万智)

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