村上春樹の世界の評判 日本でのノーベル文学賞騒ぎとハーバード大学
村上春樹はまちがいなく日本有数のベストセラー作家です。1980年代、村上春樹の「ノルウェイの森」が日本国内で大ヒット。今では世界中で翻訳されています。おそらく海外進出をこれだけ熱心に取り組んだのも村上春樹が初めてではないでしょうか?
恥ずかしながら私は、当時から彼の存在を知っていましたが、初めて彼の作品「ノルウェイの森」を読んだのは40歳のとき。2010年頃です。福岡出張からの帰りに、博多駅のキオスクでたまたま文庫本を手に取りました。新幹線のなかで物語に夢中になり、自宅に着いてからも一晩中読み明かしました。
その後、村上春樹全集をすべて読破。全集以降の彼の作品も漏らさず読み続けました。彼の作品を読むと興奮するでもなく、涙を流すわけでもありませんが、なぜか心の中の波が静まるのです。そして静まった波の遙か奥底には、かすかなざわめきがずっと心に残るのです。
私は「ポストクロッシング」という絵はがき交換サイトの会員として、毎月10人程度、海外の会員と文通をしています。会員は旅好き、本好きという共通点があります。私が絵はがきを送るときにはいつも村上春樹のファンであることを書いています。すると、私も好きですとか、彼の作品を読んだことがあります、との返事が来ることがあります。
一番多いのは「海辺のカフカ」。最近では「国境の南、太陽の西」を読んだとのコメントがありました。ところが不思議なことに「ノルウェイの森」は一度もありません。ポストクロッシングの会員とは読者層が違うのか、それとも海外では人気がないのか。
先日、「ハーバードの日本人論」(佐藤智恵)を読みました。ハーバード大学のカレン・L・ソーンバー教授(専門は比較文学)のインタビューで村上春樹についてコメントしていました。佐藤の「村上春樹が人気があるのは、過去の日本がアジアに侵略したことに対して反戦的だからか?」との質問に対して「(そうではない)村上作品の中でもっとも人気のある作品のひとつは依然として「ノルウェイの森」なのです」と答えています(やっぱり人気があるですね)。
そして「村上春樹は物語の力を信じています。村上は物語を通じて、人間や社会が抱える普遍的な問題を問いかけます。喪失感や虚無感のそのひとつです。主人公はしばしば現実と異界を行き来します。そのうち読者は超現実的な世界に引き込まれ、この物語が日本を舞台にしていることさえ忘れてしまうのです」と分析しています。
村上作品を読んだ読者は「これは私のことを書いている」としばしば感じるそうですが、私にはこの感覚がよくわかりません。でもまあ、作品をどう受け止めるかは各人に委ねられています。そういうのもいいかも知れません。
ただ、私には許せない受け止め方が2つあります。一つは私の職場の同僚が村上作品をポルノ作品と捉えていること。たしかにセックスシーンはありますがちょっと誤解しています。村上作品は官能小説とは違って、私は性的な興奮を覚えません。描写は過激であっても、常にむなしさやかなしさを感じるのです。同僚はおそらく村上作品をまともに読まずにセックスシーンだけ読むのではと感じました。そしてもうひとつがここ数年のノーベル賞騒ぎ。文学賞がなくなって本当によかった。これはまた別の意味で、許せない受け止め方です。ただ本が売れてほしい。日本はすばらしい。村上ファンが喜んでいる。という文学とは別の観点に思えてならないからです。
ちなみに私は「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」と「国境の南、太陽の西」が好きです。また、私の心に最も深いダメージを与えたのは短編の「ねむり」です。この短編は怖くて再び手に取ろうという気持ちが起きません。理由はわかりませんがきっと不条理な結末が得体の知れない恐怖の存在をこっそりと教えているからかもしれません。
いつか君が歌ったこんな夕暮れのハートブレイクホテルの灯(あか)り(俵万智)
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