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2022年9月 1日 (木)

「アフガン安定化への道筋」を読む

小論「アフガン安定化への道筋」(多谷千香子)を読みました。

アフガニスタンは、1970年代のソ連のアフガン侵攻以来、戦争状態が長く続きました。ソ連撤退後は部族間の内戦が発生、その合間にタリバンが覇権争いに加わるなど、常に政情が不安定でした。その結果、ビンラディンなどテロリストの巣窟というイメージが定着しています。医師の中村哲氏がテロによって殺害されたことも、まだ多くの日本人には記憶にあることでしょう。

このアフガニスタンについて、論者の見解は非常に鋭く、そして、私のアフガニスタンに対する知識がいかに中途半端であるかを教えてくれました。

まず中村哲氏暗殺の事情を解き明かしてくれました。「中村哲医師は、クナル川の水を引いて砂漠化した大地を緑化し65万人の命を救ったが、パキスタン側での水供給の現象を懸念した三軍統合情報機関(ISI)に雇われた殺し屋に殺害された。水資源は貴重で、利用について流域国との調整は不可欠であり、すぐに合意できる問題ではない」

そう、中村氏の農業用水建設は、一方で深刻な水争いを引き起こしていたんですね。

そしてアフガニスタンの現状は「人口の半分以上が飢餓に瀕し」ているのに、いっこうに支援の手が行き届かない事情についても解説しています。「インドは従来からプロテイン入りビスケットをアフガン人の子供800万人向けに供与しており、タリバンが政権を取った後にも供与自体は続けられているが、子どもたちにビスケットは届いていない」とし、「(供与が)ストップしている原因は、学校が閉鎖されて配給スタッフもいなくなったことである」というのです。

つまり、タリバン政権の機能不全が、アフガニスタンの社会インフラを破壊しているというのです。

「パキスタンのカーン首相が『女子差別はタリバンの伝統文化』と喝破したように、タリバンはシャリア法の実現を理想としアフガンの田舎の伝統を重んじる集団」です。どうしようもないかと思いきや、このタリバンを脅かす勢力があるというのです。

「2015年に誕生したタリバンよりも過激なIS−Kは、タリバンを叩くのは今がチャンスと見て攻勢を強めており、2021年8月に起きたカブール空港襲撃事件をはじめ、全土でタリバンを攻撃」しており、さらに「IS-Kはウイグル人を募集して米軍撤退後メンバーの数を2倍に増やしており、タリバンと良好な関係の中国を攻撃してタリバンに打撃を与えようとしている」というから、国際政治の状況がここにも反映されているのです。

ビンラディンについても言及があります。「ビンラディンはタリバン前政権が樹立される前にひげ混んできた招かれざる客で、資格もないのにアメリカ人皆殺しのファトワ(宗教命令)を出すなどしたため、オマル(タリバン創設者)はアメリカの要請に沿って彼を追い出そうと考えていた。しかし、ビンラディンはアフガン戦争で武器をとって戦った数少ない外国人としてアフガン民衆に絶大な人気を誇っていたため、オマルは追い出す方法に苦慮」し、そうしている間にアメリカがアフガンに制裁を課し続けたため、結果的にビンラディンとの関係が緊密になってしまったとのこと。

そして、あれだけ部族間抗争が激しかったにも関わらず、部族(軍閥)が今ではまったく存在感がない様子を次のように解説しています。「旧北部同盟の軍閥が立ち上がらなかったのは、率いてきたリーダーたちの多くが高齢で、この20年の間に戦いを忘れてしまったことが大きい」

アフガンの戦士たちは年老い、後継者は育たないままこの状況を迎えてしまったことが原因だというのです。

9.11テロ。ニューヨークの世界貿易センタービルにジェット機の追突し、崩壊する様子を覚えている方はたくさんいるでしょう。しかし、私にはまさにその日、アフガニスタンのマスード司令官が暗殺されたことに強い衝撃を受けました。マスードはソ連と戦った英雄でした。この世界同時多発テロは、私には映画ゴッドファーザーのクライマックスを連想させました。

まずソ連が撤退し、今度は米軍が撤退し、今は中国がアフガン国内の資源を目当てに鉄道を伸ばして進出しています。過去の侵略者はすべて撃退したアフガン。中国が今後アフガンでどういう展開をたどるのか、非常に興味深いですね。

「イラク軍の盲撃ち」と言いしキャスターが謝罪しており地形図を背に(吉川宏志)

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