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2022年6月11日 (土)

「指揮官たちの第二次世界大戦」を読む

「指揮官たちの第二次世界大戦」(大木毅)を読みました。

第二次世界大戦で活躍した各国の軍人の評伝です。帯に「本当に名将だったのか」とあるのですが、この「名将」の定義に著者の個性が現れています。

「終章 現代の指揮官要件 第二次世界大戦将帥論」を読むとわかりますが、著者はどうやって敵を打ち負かしたかという観点ではなく、ヒューマンインタレスト(読者の共感を呼ぶような事実。簡単にいえば週刊文春の記事みたいなもの)の観点からの叙述となっています。

本書で取り上げた将軍を順に紹介すると

「南雲忠一(日本海軍)」 真珠湾攻撃で第2攻撃を決断しない消極性を批判されているが、そもそも第2攻撃は計画もなく、その余力もなかったし、第2攻撃を周囲が進言したというのも偽りだった。

「カール・デーニッツ(ドイツ海軍」Uボートで通商破壊戦を実行し、多大な成果を上げたものの、大戦後期は連合軍側の潜水艦対策にまったく歯が立たなくなった。しかし、デーニッツは必敗とわかっていながらUボートを出撃させ、部下を無駄死にさせた。

「ジョージ・パットン(アメリカ陸軍)」アメリカでは有名な将軍だが、アメリカ政府の評価では4番目である。1,2、3番に評価されているのはアメリカの資源をどのように組織に配分するかを判断したマーシャル将軍などである。結局、パットンが指揮した軍なんて組織の一部でしかないのだ。

「水上源蔵(日本陸軍)」辻参謀によって死を強制されたビルマの守備隊長。

「トム・フィリップ(イギリス海軍)」イギリス東洋艦隊指揮官は、戦艦プリンス・オブ・ウェールズとともに沈んだと喧伝されているが、これはイギリス軍捕虜のつくり話。この創作ドラマは日本人に「艦長、司令官は戦艦とともに死ぬべき」という意識を植え付けた。その結果、日本海軍は優秀な人材を失った。

「ゲオルギー・ジューコフ(ソ連陸軍)」ノモンハン事件で勝利したが、彼は優秀だったと言うよりも運が良かった。

「ウイリアム・スミス(イギリス陸軍)」インパール作戦は、牟田口司令官の無謀な判断に批判が集まっているが、敵方であるスミスは一旦撤退して日本軍の補給が困難な状況に陥ってから反撃する作戦を準備していた。日本軍に包囲されても航空機による輸送で補給を確保する準備を予め整えており、もっと評価されてしかるべきだ。

このほかに、「シャルル・ド・ゴール(フランス陸軍)」「ゲオルク・トーマス(ドイツ陸軍)」「ハンス・ラングスドルフ(ドイツ海軍)」「エルンスト・ローデンヴァルト(ドイツ陸軍)」「山口多聞(日本海軍)」も取り上げてありますが、戦闘指揮の記録が皆無に近く、軍人としての評価になっていません。

著者は、「戦略、作戦、戦術を一体的に考えるべきだ」といいたいようで、戦略を無視した指揮官については、どんなに優秀な軍人であっても低く評価しています。そして敗戦国である、ドイツや日本には名将はいないことになります。

第二次世界大戦で勝利したのはソ連であり、アメリカであり、イギリスであり、中国です。戦略の勝利をいうなら、二正面作戦を回避した唯一の国ソ連の指導者スターリンや、日本軍にはゲリラ戦だけでまともには戦わず、国民党を打倒する戦力確保に努めた毛沢東を評価すべきでしょう。著者がどうしてこの2人をとりあげていないのか、不思議です。

えっ、ふたりとも政治家であって、軍人ではないじゃないかって。

だったら、軍人は軍人として評価すべきじゃないですか。ホームランバッターをチームの勝利数や野球観で評価してどうするんですか? 

うってつけの石があったら投げようよ夏盛り、鴨川のほとりに(阿波野巧也)

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