雨降りで憂鬱な土曜日 あいがて家で一杯
梅雨に入って1ヶ月。ひとときに比べれば雨の日はずいぶん少なくなりましたが、週末になると雨になる傾向は相変わらず。今週も金曜日の午後から雨が続きます。ずっと家にいると気が滅入ります。
土曜日の午後、雨がやんだのを確認してから鹿児島中央駅界隈に繰り出しました。この日の朝日新聞の広告に「バカに唾をかけろ」(呉智英)が新刊として発売されていたことが掲載されていたからです。
アミュプラザの紀伊国屋でこの本を買い、コーヒーでも飲みながらこの本を読もうと思ってお店を探したのですが、どこもお客さんが多い。ベル通りを歩いてみたのですが、どの店もゆっくりコーヒーを飲める雰囲気ではありません。午後4時を少々過ぎた時間でしたが、居酒屋に立ち寄ることにしました。
入ったお店は「あいがて家」。午後4時から開いています。2階にあがり、中には男性2名の客がいるだけで広々と空いていました。
私はメガサイズの生ビール(780円)と味噌煮込みの手羽先、なんこつ、厚揚げを1本ずつ注文。メガサイズといっても中ジョッキ2杯分の量。ゆっくりと喉を潤しながら「バカに唾をかけろ」を読みました。
著者の呉智英(くれともふさ)は私が大学生の頃から評論家として活躍していました。彼は民主主義を疑う「封建主義者」として有名(? 「知る人ぞ知る」が適切かも)です。マンガ評論も有名みたいですが、私にはよくわかりません。
彼は民主主義や人権に最高の価値を置く知識人をけちょんけちょんに批判します。批判の多くは知識人たちの日本語の誤用ですが、「真実は細部に宿る」といいます。知識人たちの思考回路の基礎に欠陥があると指摘しているといった方がいいでしょう。
それはともかく、著書の中で面白かったのが「理論とエロ話」の章。国鉄の労働組合において絶大な権力をふるった松崎明のオルグ活動の話がでてきます。
引用された左翼運動家の回顧録に「松崎さんは労働運動とはこういうものだよ、のたとえとして、職場で酒を飲みながら、猥談(わいだん)をする話をした」 別の対談集で松崎は語る。「いやあ、労働運動なんかわかるやつが(革共同のなかには)一人もいないんですよ」
革共同とは革マル派(共産主義者のうち、日本共産党とは険悪な関係にある団体)のこと。私が子供の頃(1970年代から90年ぐらいまで)中核派との激しい内ゲバ(暴力による内部抗争)を繰り広げていました。中核派は暴力革命を標榜していただけに、警察からの摘発(国家権力による弾圧)が続き、今は壊滅状況。一方の革マル派は「組織の革マル」と当時は言われていました。オルグ(勧誘活動)によって組合加入を勧めていくのが活動の中心なので警察は逮捕できない。内ゲバの結果は知りませんが、組織的には革マル派が勝利したのかもしれません。まあ、それがなんなんだと言われるとそれまでですが。
呉智英は皮肉を込めて松崎をこう評しています。「黒田寛一(革マル派の最高指導者)の本に、オルグの要は酒飲んでエロ話だとは一言も書かれていなかった。マルクス・エンゲルス全集にもレーニン全集にもトロツキー選集にも、確認したわけではないが、一言も書かれていないはずだ」「しかし、その松崎が国鉄を分割民営化に追い込む重要な役割を果たした。もし後継者が育成されていれば共産主義革命が実現していたかもしれない。酒とエロ話でオルグ、おそるべし」
黒田寛一は多くの著書を残していますが、そこに一般の人が理解できる「文章」がありません。難解というより、これを日本語と理解していいのかというレベルです。だからなのか、左翼の崇高(すうこう)な理論よりも「酒とエロ話を武器に心を鷲掴み」することが大事なんですね。
自民党が強いのもよくわかります。そして政治家がどうして教養がなくてもなれるのか、その理由もよく理解できます。本音と建前は日本人にとっては当たり前ですが、本音で語ると身も蓋もないですね。日本人は劣化し続けているはずです。
外をみると小雨が降ってきました。私はメガジョッキを飲み干しました。今日は締めて1800円弱。私は日本の将来を心配するような国士ではありません。小市民らしく、日本の衰退を前提に人生設計をしています。
樹も草もしずかにて梅雨はじまりぬ(日野草城)
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