「国家はなぜ衰退するのか」は「隷属への道」を超えたか?
「国家はなぜ衰退するのか(Why Nations Fail)」(ダロン・アセモグル & ジェイムズ・A・ロビンソン)をようやく読み終えました。南米やアフリカの貧困国の例を挙げながら,収奪される経済と収奪的政治制度が相まって,貧困の悪循環に落ちていくことをこれでもかと示していきます。
そして西欧諸国や日本などのごく一部の国が,どれだけ歴史的な偶然から好循環のスパイラルにのって繁栄していったのかが丁寧に紹介されています。
社会的制度が国の繁栄・衰退を決めるというのは,何も珍しい話ではありません。私が子どもの頃は共産主義がまだ幅をきかせていました。資本主義は資本家が労働者から搾取している悪い制度であって,共産主義は生産手段を国有化,すなわち資本家から財産を奪うことで労働者を解放し,自由で平等な社会を実現しようというものです。
ソ連や東欧諸国が崩壊し,共産主義は失敗だったことが今では定説になっていますが,いまだに北朝鮮や中国では共産党が支配を続けています。
「国家はなぜ衰退するのか」を読めば,なぜ共産主義が失敗したのかを端的に示しています。共産主義は政治的に独裁である。独裁は「創造的破壊(イノベーション)」を拒む。なぜなら「創造的破壊」は経済だけではなく,政治体制を覆すほどの力があるから。
そして,共産党が資本家に代わって支配者になっただけで収奪的経済構造はそのまま維持され続けたことが明らかになっています。
この本を読み終えた後,ふと「隷属への道(The Road to serfdom)」(F・A・ハイエク)を思い出しました。共産主義思想が全盛期のとき,共産主義を批判し,資本主義の優位性を示した名著です。出版された当時はソ連の計画経済が全盛期。西欧の経済学者たちはソ連の共産主義を褒め称えていました。今では考えられないことですが,ハイエクは世界の多くの経済学者たちから酷評されたのです。
そしてこの「国家はなぜ衰退するのか」は,中国経済がめまぐるしい経済発展を続けているこのときに出版されました。中国はいうまでもなく共産党の一党独裁。私有財産は認めず,農民と都市住民は明確に差別されています。このような収奪的な構造を維持している中国経済が今後発展し続けるはずがないと予言しています。中国は現代の先進国に追いつくことはできるが「創造的破壊」に踏み込めない以上,必ず成長の限界を迎え,かつてのソ連のように衰退していくと。
久しぶりに知的好奇心をかき立てる名著に出会うことができました。そして,ハイエクの「隷属への道」をまた読みたくなりました。
ソ連なき世界はいよよ深くあれど金柑を置く餅のいただき (大辻隆弘)
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