PCR検査を受けたがる人ほど感染の可能性が低い?
仕事が終わり,私はタクシーに乗りました。まだバスが運行している時間なのですが,残業が続くので少しでも早く帰宅したい。
60代を過ぎているタクシーの運転手は名探偵コナンをみていました。今夜は9時から劇場版の名探偵コナンが放送されていたのです。「どの番組を見てもコロナばっかり。コナンでも見ないとね」と私が尋ねてもいないのに言い訳を始めました。よほどきまりが悪かったのでしょうね。
運転手はコロナウイルスの話を始めました。「検査を受けようとしても保健所が断るらしいですよ。私が乗せたお客だけでも何人もいますよ。本当に酷い話だ」
話半分に聞きながら,私は車内の名探偵コナンをずっと見ていました。運転手はよほど話をしたかったのか,コロナ関係の話はまだまだ続きます。
「ラ・サールの感染した生徒がタクシーに乗ってるでしょう。ところがその乗ったタクシーが3日経ってもわからない。タクシー無線でも毎日呼びかけとるんですよ」
「確かに福岡から来た高校生が鹿児島のタクシーをいちいち覚えていませんよね」
「確かに高校生はそうだけれど,乗せた運転手の方は絶対覚えてるよ。中央駅で乗せるお客のほとんどは天文館に行く。それが谷山方面だとすごく珍しい。しかも今は新幹線の利用客が少ないから運転手が稼ぎよかった客を忘れるはずがない」
「それじゃあどうして運転手は名乗り出ないんでしょう。不安でしょうに」
「感染したことがわかると仕事ができなくなるでしょう。ましてや法人だと補償もないし。そうなると名乗り出て検査を受けたりしませんよ。ただでさえ最近は稼ぎがない。そして休業となると生活していけませんよ」
運転手の話を聞きながら,私は矛盾に気付きました。「不思議なもんですね。検査を断られたといいながらタクシーに乗って文句をいう人はたくさんいる。逆に,感染のおそれが高いのに検査を受けようとしない人がいる。検査を断れた,保健所はけしからんという話はよく聞きますが,検査を断られた結果,亡くなった人がどんどん出ているなんて聞いたことがありません」
続けてこう言いました。「結局,検査を受けたがるのは自分が感染している可能性が思い浮かばないような人,検査を受けようとしないのは感染のおそれが高い人,ってことなんじゃないですか?」
そこまでいうと,タクシーの運転手はちょっと考え込み,私の意見にしぶしぶ同意しました。別にこの運転手を責めているわけではありませんが,私はコロナウイルス騒ぎで目にする人間の身勝手さに腹が立つのです。
置きどころなくて風船持ち歩く(中村苑子)
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