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2020年1月19日 (日)

「不便益という価値」を読む

「不便益という価値」(川上浩司)を読みました。

不便益とは,不便ならではの効用を意味します。この著者は不便益を持つ事例をコレクションしながら,それらを分析して「不便」と「益」の関係を明らかにしようとしています。興味をもって読み進めました。

著者は様々な事例をコレクションした結果,表面的には「劣化させよ,大型化せよ,操作数を多くせよ,アナログにせよ,危険にせよ(失敗の可能性を与えよ),限定せよ」などの不便にデザインする方策と,「発見できる,(能動的に)工夫できる,上達できる,対象系を理解できる,能力低下を防ぐ,主体性が持てる,安心・信頼できる,俺だけ感がある」という不便から得られる利益が得られたとしています。

インダストリアルデザイナの全国組織「JIDA」の関西ブロックが主催する学生コンペのテーマとして,この「不便益」が採用されたそうです。しかも2017年から3年連続で。デザインのプロ達がこれからのデザイン界を背負う学生達に,「不便益」をテーマにしたコンペを開催したところが非常に興味深い。

このコンペの優秀作品のひとつに「ReminDoor」という玄関ドアの鍵があります。審査員達に「もうひとひねりで最優秀だったけど」と言わせた作品です。コンペの後,もうひとひねりした結果,次のような鍵が誕生しました。

まず,ドアには鍵穴が二つあり,そのうちの一つはダミー。そしてダミーか本物かはランダムに入れ替わります。ユーザーにはどちらが本物か分かりません。鍵をかけようとして運悪くダミーの鍵穴に差し込んでしまうと,鍵をひねってもスカッと力が抜けてしまう。仕方なしに他方の鍵穴にさし直すという手間をかけなければならなくなります。一方,運のいい日は,最初に差した鍵穴が本物だとちょっと嬉しくなります。この,ちょっと嬉しかったり逆にちょっと手間取ったりすることが,鍵をかけたことを記憶に残す(Remindする)というアイデアです。

言われてみると,玄関に鍵をかけて外出したとき,「あれっ鍵をかけたっけ」と自分の記憶に自信がなくなり,玄関に引き返して鍵がかかっていることを確認したりします。それを防ぐことができるようになるわけです。

便利になればなるほど使わない機能は低下していきます。例えば電話番号。今ではスマホなどに登録して電話番号を諳(そら)んじて言えるなんてことはありませんよね。でも,その結果,スマホが使えないとなると電話番号を思い出せず万事休すとなります。

たまたま,私の娘がスマホや家の鍵など一式をなくしたことがありました。そのとき娘は私や妻の電話番号を知らなかったため,家に入ることができないことがありました。

そのとき,娘は唯一覚えていた妻の両親(娘からすればおじいちゃん,おばあちゃん)の自宅に電話をかけることができました。なぜそこだけの電話番号を覚えていたのか? 

私が妻の両親宅に電話をかけるときは,その電話番号を語呂合わせにして口に出しながらかけていました。娘も知らず知らずのうちに私の語呂合わせを覚えていたのです。私は日頃使う電話番号のほとんどを語呂合わせにして覚えているか常時携帯する手帳に書き留めているのです。

なんでも便利さを追求する昨今(さっこん),アナログを大事にしている私は,なんでもないことでも便利さに身を置いている人たちから馬鹿にされます。でも,無駄と思えることでも役に立つことはあるのです。この小論を読んで,自分の考え方に応援してくれる人がこの日本のどこかにも存在することがわかり,なんだか嬉しくなりました。

はなび花火そこに光を見る人と闇を見る人いて並びおり(俵万智)

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