リベラルな社会の実現と,現代うつやアスペルガー症候群との因果関係
元事務次官がひきこもり状態だった長男を殺した事件について,昨日,東京地裁は懲役6年の判決を言い渡しました。世論は父親に同情的です。
事件を伝える朝日新聞では,精神科医の斎藤環が,殺害の他に方法がないという父親のメッセージを真っ向から否定した上で,長男への周囲の対応には様々な問題があったと指摘しています。
たとえば父親の「ゴミは自分で片付けろ」「親の財産で生活するな」。このツイッターのダイレクトメッセージに対して斎藤は「ひきこもっている本人が一番自分を恥じ,つらいと思っているということに認識が及んでいなかったのでは」とコメントしています。
でも,ちょっと待てよ。私の父も,そして私自身も,自分の子どもをしつけるときには同じように注意したものです。斎藤さん,それじゃあどうすればいいんですか? 「ゴミを放置していい」とか「親の財産でお前を一生養う」なんて子どもに言いますか? それを聞いた子どもは安心するんですか? バカ言うんじゃない。それこそ子どもを傷つける,残酷な仕打ちではないでしょうか。「お前を見捨てた」といわんばかりです。
弁護側は,この長男がアスペルガー症候群だったことを裁判のなかで明らかにしています。アスペルガー症候群とは,発達障害のひとつで,他人に関心がないのではないのですが接し方が分からない,あるいは何でも正直に言ってしまうので対人関係がうまく築けないといった症状(?)です。
また,アスペルガー症候群と同じように最近はやっているのが現代うつです。こちらは気分の落ち込み,苦しみはあっても職場を離れると気分は回復し,好きなことは活動で気にできます。現代うつを発症した人は,自分に対する他者からの評価や感情に対して過敏で傷つきやすく,一方で他者に対する攻撃性が高いという特徴があります。
30年前,この2つの病気を,私は聞いたことがありません。もちろん,対人関係がうまく築けない人,攻撃的な人,ゴミ片付けができない人は昔もいました。しかし,当時,それはあの人の「性格」だから,とみんな納得して,それなりに暮らしていました。
それが今では,ゴミの片付けが苦手だったり,人間関係がうまくいかないことは,「病気」のせいだから認めてくれ,ということなのかしら。精神医としてはそれが正しいんでしょうけど,病気の人とただの怠け者とどうやって区別をつけるんでしょうか。素人の私にはお手上げです。
戦後になって平等主義が行き渡りました。「格差のない社会」が徐々に進展して,生まれつきの性,家柄,貧富,能力(知能)で差別があってはならない社会になっています。では,何が社会的な成功を分けるのかというと,本人の努力,ただそれだけになってしまいます。これは逆の意味で恐ろしい社会です。
アスペルガー症候群や現代うつといった診断は,「怠け者」,「根性なし」と軽蔑される人たちのの唯一の逃げ場なのかもしれません。そう考えると「平等完全実現社会」では,ほとんどの人が病気になってしまう社会ってことになるのかも。
完全平等の実現に燃える理想主義者は,視点を変えると,このようなディストピア実現に向けて今日もがんばっているんでしょう。オー,怖っ。
やさしくて怖い人ってあるでしょうたとえば無人改札機みたいな(杉崎恒夫)
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