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2019年12月14日 (土)

あなたは「自殺したいと思っていますか」と聞くことができますか?

社員の研修や健康管理を担当している私は,先日,メンタルヘルスの研修会に参加しました。内容は「メンタル・ヘルス・ファースト・エイド」

簡単に言うと,メンタル不調になった職場の同僚に対して,1 声をかける 2 体調のことを訊ねる 3 心の状態について訊ねる 3 うつ病かもしれないと告げる 4 専門医の受診をすすめる,という流れで展開する方法です。

体調のことを訊ねるのは,心が不調になると最初に体調不良になるから。眠れない,肩こりがひどい,食欲がない(急激に痩せる)といった症状があらわれるそうです。納得しますよね。

この研修で驚きだったのが,本人に「あなたはうつ病かも」と告げるところ。今までの研修では,とにかく本人の気持ちにより添うことが大事だと聞かされていて,こちらから診断めいたことはしないものだと思っていました。

しかし,今回の研修でははっきりと「あなたはうつ病の可能性がある」と説明した上で,心療内科などの専門医の受診を薦めることの大切さを説いていました。

さらに一歩踏み込んで,心の状態について訊ねるときには「あなたは死にたいと思っていますか」「自殺したい気持ちですか」と死についても意思確認をします。そんなことしたら,本当に自殺するかも知れないと普通は考え込んでしまいますが,講師の説明ではそんな質問で本当に自殺することはないとのことです。

ただ,質問をするときに大事なことは,身体的な接触をしないということ。本当に自殺しようと考えている人であれば,体に触れると本人の自殺行動に巻き込まれてしまうおそれがあるようです。

誰でも自分がうつ病だとは考えないし,まずは否定するでしょう(若者に見られる新型うつは,「自分はうつ病だ」と最初から主張するのでちょっと違いますが)。それに対して現実を認めさせるのは容易ではない。

この研修ではロールプレイングがありました。脚本(?)があり,うつ病の社員役と面倒をみる上司役とに別れて,その脚本にあるセリフ(会話)を言い合います。声かけから専門医の受診勧奨までを脚本に沿って声に出して演じるのです。

「こんなにうまくいくはずがないよ」と内心思いましたが,講師の説明では「確かにこんなにうまくいくはずがない。しかし,うつ病の社員と面談をするとなるとなかなか言葉がでてこない。このロールプレイングを何度も声に出して体で覚えることで,型を身につけてこそ実際に役にたつ。避難訓練,消防訓練と同じように,めったに起きないことを普段から何度も繰り返し行うことが,いざというときに役に立つのです」なるほどね。

私も過去に仕事が忙しく,職場の人間関係がうまくいっていないときは,うつ病になりかけていたことがありました。当時,家に帰ると私はまったく表情がなかったようです。当時,中学生だった娘達が心配して,私に気遣ってくれました。あるときは私のために「謎解きはディナーの後で」というアイドル映画に連れて行ってくれたりしました。このことが私の心の回復に役立ったのかはわかりません。

でも,結果的に私は休職・退職することなく,仕事を続けることができました。今ではそのありがたさがよくわかります。「ビタミンF」(重松清)という小説がありますが,家族の力ってそれほど大きいみたいです。感謝しています。(講演ではうつ病治療に家族の話はありませんでした。実際には家族の協力は必要ですが,臨床の場では無力というのがほとんどなんでしょうね)

隣室に書(ふみ)よむ子らの声聞けば心に沁(し)みて生きたかりけり(島木赤彦)

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