尾木ママへの反論 朝日新聞耕論「作品に罪はない?」のピエール瀧問題
4月11日の朝日新聞の耕論では、ピエール瀧出演作品の公開自粛を巡る問題について、3人の識者・関係者の見解が掲載されていました。
このなかで尾木直樹氏は「薬物汚染の弱者である子どもを守る」立場から、作品公開は自粛すべきと主張。その理由は「彼の作品が平然と出続けたら、子どもたちに薬物の恐ろしさは『大人が大げさに脅しているだけ』と受け止められてしまう」というもの。ドーピングでは選手からメダルが剥奪される例をひき、俳優の名演技が薬物摂取による「ドーピング」的効果なら厳しい姿勢で臨むべきだとしています。
尾木ママの主張について個別に考えてみます。
まず、子供への影響について。作品公開は子たちへ誤ったメッセージを送りかねないとの主張は疑問です。まずは子どもに対して薬物依存症に関する正確な知識を教えてください。作品公開と子どもへの影響の因果関係はよくわかりませんが、あるとしても公開自粛は筋違いではありませんか?
次に、ドーピングのメダル剥奪について。ドーピング行為への制裁はそもそも選手たちの生命を守るために行われています。そして競技がフェアに行われなければ根絶できません。それがメダルを剥奪する理由でしょう。子どもへの影響を考慮してではありません。では作品を自粛することが薬物根絶につながりますか? 断じて「NO!」です。
そして、薬物問題に対する理解について。尾木ママが主張するとおり依存症患者への対処は社会にとっては重要な課題です。薬物に限らず、アルコール、ギャンブル、最近ではネットなど、依存症に陥ると社会生活がままならなくなり、社会的・経済的にも損失です。このことに関して子どもへの教育は重要との主張には賛同します。
しかし、薬物を摂取しても必ずしも破滅的な人生を送るわけではありません。現にマリファナについては合法化された国が多々あり、法令上禁止でも事実上放置している国もあります。酒やギャンブルと同じ、程度の問題です。かつてアメリカでは禁酒法が制定され、ギャングがのさばりました(映画「アンタッチャブル」の世界ですね)。麻薬についても世界的にはこのときと同じような状況があるのもまた冷酷な現実です。詳しくは「週刊プレイボーイ」(2016年11月14日発売号)の「大麻バッシングは日本の『精神の貧困』の象徴」をお読みください。橘玲の公式BLOGで読むことができます。
「週刊プレイボーイ」を鼻で笑うような権威主義者の方は、「ナショナルジオグラフィック」(2015年6月号)の特集記事「マリファナの科学」を一読ください。
最後に、改めて子どもへの影響について。子どもたちが「作品公開するなんて、薬物に対して大人は認識が甘いよな」と認識するよりも、「悪い人に対しては、法令だけではなく、集団同調圧力によって社会的に処罰することは当然だ」と認識する方が、よほど恐ろしいと思います。
少年の肝喰ふ村は春の日に息づきて人ら睦(むつ)まじきかな(辺見じゅん)
コメント