「戦術リストランテⅤ」を読む
鹿児島ユナイテッドの試合を見て不思議に思うことがあります。ゴールキックのとき、フィールド全体の6分の1ぐらいの面積にほとんどの選手が集中し、ボールを奪い合う。なんで攻撃側なのにフィールドを広く使わないのだろうということです。また、攻撃でDFでボールを回すのはいいのですが、FWが上がりすぎて中盤が空き、ロングパスも出さないので手詰まりになることも不満でした。
最近のサッカー戦術に疎(うと)いので、「戦術リストランテⅤ(ファイブ)」(西部謙司・フットボリスタ編集部)を読んでみました。
ポジショナルプレー、5レーン、ハーフポジションなど、こんなサッカー用語が定着しつつあることを初めて知りました。サッカープレーの言語化といえば、ハンス・オフト監督の「アイコンタクト」「トライアングル」しか知らなかった私にとってはまさに未知の世界。
ヨーロッパのリーグで活躍するチームを取り上げて、代表的な選手の動きを例に戦術を解説するのですが、印象に残ったのはセビージャの「ロンド」とリバプールの「デュエル」、そしてライプツィッヒの「密集隊形」です。
ロンドとは鳥かごのこと。セビージャは中央にMF2人、その周りに8人の選出が円形に取り巻き、中心のMFとパスをしながら相手ゴールに迫る戦術。一方、リバプールはイングランドらしく、ロングボールなどを敵陣に放り込み高速ウィングがもぎ取る、1対1の強さで勝負する作戦。これはこれでパスサッカー、縦パス一本のパワープレーという従来の思考で理解できます。
しかし、ライプツィッヒは従来の概念を打ち破ります。狭く守るのは敵の攻撃陣が入り込むスペースを消すためということで理解できます。驚いたのは攻撃。通常、攻めるときは普通はウィングが開いて守備陣の間隔を広げ、その空いたスペースにセンタリングをあげてシュート、となります。ところがライプツィッヒは攻めるときも狭い。狭く攻める利点としては、攻守の切り替えが早いこと。そして狭い攻撃に慣れている分、敵よりも相対的に有利という発想。こんな戦術があるとは。
サッカー界も進化しているんですね。久しぶりに知的興奮を感じる本でした。来シーズンの鹿児島ユナイテッドの試合も、こういう観点で見るとまた面白いかもしれません。
くもりのち時々晴れの日常にシンビジウムの鉢植え届く(俵万智)