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2022年5月11日 (水)

「日本外交の課題」を読む

学士會会報(第953号)に掲載されていた講演録「日本外交の課題」(谷内正太郎)を読みました。講師の谷内氏は日本の初代国家安全保証局長です。

まず、米中対立の深刻化について「トゥキュディデスの罠」を指摘します。新興国と既存大国が戦争不可避になるまで衝突することです。この言葉を定義したハーバード大学のグレアム・アリソン教授によると、このような対立は過去500年間で16回あり、そのうち12回は戦争に発展したとのこと。

アメリカはもともと中国に好意的で、満洲事変後は中国の国民党、共産党のどちらも支援し、毛沢東の死後は鄧小平の改革開放を支援しました。経済発展を遂げれば中国は民主化し、人権を尊重するだろうと期待していたようです。それだけに今の中国共産党の態度に対して、裏切られたという気持ちが強いようです。

今では中国のGDPは世界2位。日本の3倍もあります。この結果、中国は尊大になりました。コク境木の場で小国が中国と相容れない意見を述べると「小国の分際で偉そうなことを言うな」と露骨にいっているようです。

今の中国は、中国共産党が支配していますが、中国共産党はマルクス主義を信じていません。しかしながら、目的のための手段は正当化するところは放棄していません。マルクス主義に代わり「中国の夢」を実現するためならどんな言動も許されると考えています。

では「中国の夢」とはなにか? これについては講演録では触れていませんが、中国が譲れない国益として「核心的利益」を紹介しています。

「核心的利益」について、習近平はオバマ大統領に「核心的利益の相互尊重が米中関係の基本原則だ」と主張しました(2013年6月)が、問題は「中国の核心的利益は中国が定義している」ことです。

中国の核心的利益は、香港、台湾、ウイグル、チベット、南シナ海、東シナ海です。2007年に中国海軍高官が「太平洋をハワイで東西分割し、中国が西側を、アメリカが東側を管理することにしよう」とアメリカ太平洋軍司令官に提案しました。中国はインド洋も自らの管理下に置くつもりだったので、アメリカは当然拒否しました。

軍事力ではアメリカの軍事費や実戦経験では中国を圧倒していますが、東アジアの軍事力では、中国の軍事力が日・米・台湾の合計をはるかに上回っています。例えば戦闘機などの作戦機は、中国が日・米・台湾の合計の3倍を保有し、艦艇の保有数も2倍となっています。

この講演録を読むと、台湾有事があちこちで議論されていることが頭に浮かびます。中国の軍事的圧力に対して沈黙を守ることは台湾占領を消極的に支援していることになります。日本は断固とした対応をすべきと思いました。

また一方で中国は、ロシアのウクライナ侵攻に対する世界各国の対応を注視していることでしょう。ウクライナ支援のために世界各国が連携してロシアへの経済制裁等の対応をすることが、結果的には中国の専横に釘をさすことになるのではないかと期待しています。

最後に講師は、韓国問題について少々ふれています。「韓国から歴史問題などで非難されるたび、日本は謝罪し妥協的措置をとってきました。しかし、韓国はしばらくするとゴールポストを動かしてきます。この悪循環を断ち切らないといけません。国際常識から言えば、日本はもう十分に補償しています。今後、韓国が問題を蒸し返しても、その問題は政府間で解決済みなので蒸し返すべきではないと毅然と言い続けるべきです」 

そうですよね。なんでも話し合いで妥協すれば国際平和や秩序が保たれるわけではないのです。平和主義者のみなさんには受け入れられないでしょうけど。

飛行機が堕ちれば君への遺書となる葉書き書きおりスペインの野に(俵万智)

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