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2021年6月

2021年6月21日 (月)

日本最初のストリートピアノを弾いてみました。 

今日は久しぶりに鹿児島市内にひとりででかけてみました。

目的はこれといってないのですが、鹿児島中央駅にLIKAがオープンしたこともあるので、ちょっとよってみようかなというぐらいの軽い気持ちです。せっかくの梅雨の晴れ間なのに家にいるだけではもったいない。

バスに乗っている間、ストリートピアノのことを思い出しました。以前ネットで検索すると、鹿児島市内で検索したときに、鹿児島中央駅近くの一番街と天文館の中町にストリートピアノがあると紹介されていました。いまでこそ日本の駅や空港、商店街などあちこちにピアノが置かれていますが、一番街のピアノが日本最初のストリートピアノとネットで紹介されていたのでびっくりですね。

天文館のバス停で降りて、中町を山形屋に向かってある行くのですが、ピアノが見当たりません。開店前の化粧品店の前で清掃をそうしていた20代ぐらいのお姉さんに「このあたりにストリートピアノがあると聞いたんですが」と声をかけましたが、しばらくの沈黙の後「さあ、存じませんが・・」とのこと。

それから10分程歩いてようやく見つけました。なんと店の中にありました。わからないはずです。そのアップライトピアノは入り口の脇に置かれ、上品に黒光り。「ご自由にお弾きください」と案内された掲示板がピアノの近くにおいてありました。

しかし、この店の入口は人が2人ぐらい並んで入れるかなあというぐらい狭い。ピアノを演奏したらお客さんはお店に入りにくいだろうな、お店の前で演奏したら迷惑だろうなあ、とあれこれネガティブな思いが沸き起こり、結局そのまま通り過ぎました。

市電で鹿児島中央駅へ。今度は一番街のストリートピアノを探しました。こちらはすぐにみつかりました。居酒屋しげぞうの前にエメラルドグリーンのペンキで塗られた簡素なアップライトピアノです。鍵盤にはふたがしめられていて、南京錠で施錠するようになっていました。

案内板には「午前10時から午後5時まで。一人30分以内。ほかに待っている人がいたら譲りましょう」そんなことが書かれていました。

さっそく蓋をひらき、椅子に腰掛けて鍵盤をさわってみました。椅子の座りがどうも悪い。軸が折れているような感じで、ちょっと斜めになった椅子に腰掛け、今練習している「戦場のメリークリスマス」を弾いてみます。

イントロ部分の雪が降るような繊細なメロディーを弾きはじめたとき、右後方に人の気配を感じます。通行人だろうと思ってそのまま演奏を続けていると、その人が私の近くのテーブル席に腰掛けるのがわかりました。私は無視して演奏を続けました。

このストリートピアノは、私の家の電子ピアノとは少々音が違います。なんだか「ぴょこぴょこ」と間抜けたような音がするのです。それでもやはりアップライトピアノ。弾いているうちに気持ちよくなってきました。サビのところで何度かとちりましたが、気持ちよく最後まで弾き終えました。

演奏を終えた感慨に浸ったまま左のテーブル席を見ると、私と同じ年ぐらいの中年の男性がこちらをじっと見ています。髪は伸びているもぼさぼさ。体型もふとりぎみ。顔も平板で冴(さ)えない感じでした。

「弾かれますか?」と声をかけると、感情のない声で「はい」。私は話をする気も起こらず、そのまま「どうぞ」と席を立ち、自宅に帰るためにバス停に向かいました。この場所にいたのは時間にしておよそ10分。演奏も「戦場のメリークリスマス」の1曲を1回だけ。このおっさんはなんてずうずうしいんだろう。私が来たばかりなのを知っていながら、さっさとどけよと言わんばかりの態度をとるなんて。まあ、私も新参者ですから黙って早々に退散する方が得策でしょうけど。

バス停に向かって歩きながら、背後からピアノの音色に耳をそばだてましたが、まったく聞こえてこない。このおっさんは何者なんだろうか? と疑問が残りました。私がいなくなってから彼がプロ並みの演奏をしていたらすごいギャップでおもしろいんですが、とうとう謎のままでしたね。

ぜいたくに飽きてしまいし老人は古家に暮らせり遠い目をして(俵万智)