虎落笛の上品さとセーターのあたたかさ
學士會会報には会員の短歌、俳句、漢詩が掲載されています。そのような嗜(たしな)みのない私でも、時間つぶしにしばしば目を通します。
俳句の会は草樹会というのですが、12月例会の俳句は何だこれは? という俳句のオンパレードで驚きました。ざっと紹介すると、
「虎落笛灯揺らぐ山の音」「遠き遠き日の思い出や虎落笛」「みちのくの虎落笛きく一夜かな」「ユトリロの絵から聞こゆる虎落笛」「村の灯に息も継がせず虎落笛」「虎落笛回転ドアに人気なし」「コロナ禍やGoToキャンペーン虎落笛」「虎落笛土地切売りの赤幟(のぼり)」「ひとり酒泣くがごとくに虎落笛」「荒波や鉄塔に立つ虎落笛」
はて「虎落笛」がなんだかわかりましたか? 私はネットで調べてようやくわかりました。「虎落笛」とは「もがりぶえ」と読みます。冬の厳しい風が柵を吹き抜けるときに立てる音のことです。
この「虎落笛」が「もがりぶえ」とわかったとたん、これらの俳句がぱっと風景となって、それこそ音を立てて目に浮かびます。俳句のすばらしさですね。草樹会は東京に本拠があるだけに、俳句がどれも上品ですね。
それに比べると関西草樹会はまったく作風が違います。こちらはお題が「セーター」だったようです。お題からして身近ですよね。そして俳句はこんな感じです。
「セーターに日曜の顔くぐらせる」「北欧の太編みセーター来て帰国」「セーターのひとつはづれし編み目かな」「家中の噂(うわさ)手編みのセーターに」「セーターの袖(そで)をつまんで初デート」「セーターを買ふに一日かけし妻」「セーターに介護の染みのなつかしき」
どうです。これらの俳句には愛情が感じられませんか? これは、お題の違いではなく、関東人と関西人の着目の違いではないかと思います。
私の場合、俳句を詠んで心にしみるのは、「セーター」に込められた詠み人のやさしさの方みたいです。
一本のすでにはげしき花吹雪(片山由美子)
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