思い切って声をかけた・・・ OKの返事をもらえたけれど。
朝はバスで通勤します。週に数日ですが,20代の女性が私と同じバス停から私と同じバスに乗ります。もう2年も同じことが続くので,バスを待つ間ときどき話をすることもあります。天気のことだったり,イベントのことだったり,お互いの勤務先のことだったりと,そのときに思いついたことを一言,二言口にするだけですけれど。名前も知らないので私は彼女を「カコさん」と勝手に思っています。
それが先週木曜日のこと。バスに乗り,途中でうつらうつら居眠りしている私が,ふと目を覚ましたとき,バスの中はお客がいなくてガラガラ状態。ところが,私の2つ前の,一人がけの席に座っている女性の隣に,太った中年男性がピッタリと立っています。ほかの2人掛けの席がいくつも空いているのに,なぜこのおっさんはここに立ってるんだ? と訝(いぶか)しみ出すと目が覚めてしまいました。
席に座っている女性は気付かないはずはないのですが,特に嫌がる素振りは見せずに顔を伏せていました。立っている男性はずっと俯(うつむ)いて彼女を見つめています。
あるバス停でその中年男性と,席に座っていた女性は一緒に降りました。しかし,降りる様子を見るとどうも他人のようです。そしてその女性は「カコさん」でした。
金曜日の朝,バスを待っているときに,いつものように「カコさん」がやってきました。私のそばにきたときに「ひとつお願いがあるんですが」と私が切り出すと彼女は「いいですよ,なんですか」と応じてくれました。
「今日バスに乗るときに私の隣に座ってくれませんか」彼女は少々驚いたようですがOKしてくれました。「でもどうしてなんですか」
私は木曜日の出来事を話し,どうもおっさんの様子が変だったのでと付け加えました。彼女も変だなとは思ったとのこと。そのおっさんは全く知らない人だが,これまでも行きや帰りのバスで一緒になることもあったと教えてくれました。
バスが来ました。私は彼女を誘い,私と2人掛けの席に座りました。私は窓辺でいつものように居眠りし,彼女は私の隣でスマホをいじったり手帳に書き込みなどをしていました。バスに乗っている間,二人で話をすることはありませんでした。
結局,あのおっさんは現れず。バスを降りるとき彼女は「今日はありがとうございました」とお礼を言って席を離れました。
彼女が私のことをどう思ったのか,よく分かりません。まあ,あれこれ考えてもしょうがない。私のことが嫌だったらバスを変えるだろうし,気にしなかったなら,これまで同様,同じバスに乗るでしょう。でも,私の隣に座るかな?
春めきてものの果てなる空の色(飯田蛇笏)
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