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2020年1月 2日 (木)

「パックス・アメリカーナ」を読む

令和2年の2日目。娘を学校に送り出した後,元日の朝日新聞と南日本新聞を読みました。特にカルロス・ゴーンの海外脱出の記事をじっくり読みました。すごいですね。日本の司法制度を批判するのは結構ですが,まさか海外に脱出して裁判自体を止めてしまうとは。桁外れの金持ちだからこその芸当でしょうね。

その後,高坂正堯全集を再び読み始めました。今日は「パックス・アメリカーナ」。

「パックス・アメリカーナ」とはアメリカが覇権国の平和という意味です。これはもちろんアメリカの軍事力が突出していることを示します。しかし,アメリカの軍隊が規律や士気,作戦の点で,専門的な軍人の中では余り高く評価されていません。なぜなら,アメリカは見事な一撃によって相手を崩すのではなく,膨大な力を集めることによって相手を圧倒するところに,その最大の特徴を持っているからです。

ここで高坂先生は,「アメリカにおいて「名将」や「英雄的な戦士」を探しがたいことこそアメリカの強さが求められるように思われる」と分析しています。そして,アメリカ人の多くはこのアメリカ的な戦争方法をほとんど無意識のうちに身につけている,とまで述べています。

アメリカ人にとって「物量」は人間が作りだすもので天から与えられるものではない。アメリカは「物量」を作り出すことができる文明である。アメリカは大きな戦争においてこの能力を十分に活用して大きな戦争に勝利してきたと。

先生の議論は,アメリカの歴史的背景や国土の広さ,選挙制度などの複層的なアメリカ社会をひとつずつ切り出して,現在のアメリカの強さを説明していきます。

私はこれを読んで,日本はどうだろうと考えました。日本は職人気質という「この道を究める」生き方が賞賛され,「他人に迷惑をかけてはいけない」という躾(しつけ)があります。太平洋戦争ではこれらが特化され,陸軍では白兵戦至上主義,海軍では一点豪華主義(戦艦大和,攻撃能力を高めたゼロ戦など)になっていきます。

第二次世界大戦において,日本はアメリカに物量戦で負けたことは誰もが知っている事実ですが,過去にこのような戦いがなかったのもまた事実です。日露戦争のように圧倒的に生産力で劣る小国日本が大国ロシアに勝つ例もあったように。

日本はアメリカとの戦争に負けますが,これはどちらの国の気質がより素晴らしいということではなく,戦争ではそういう文明論の対立がより顕著に表れるということなのかと理解しました。

さて,話はカルロス・ゴーンに戻ります。彼がレバノン人なのか,ブラジル人なのか,フランス人なのかを論じません。ただ,彼なりの戦い方が,圧倒的な金銭にものを言わせて日本の司法制度の枠外に飛び出すという方法だったのでしょう。この選択は彼自身の文明的背景があると思えてなりません。

逆に日本の検察は日本の司法制度の中では圧倒的な権力をもっていますが,その制度の外では無力に近い。これもまた,道を究めているけど,道を外れるとただの人になってしまう日本人職人らしさを象徴しています。今後両者の間でどういう戦いが展開されるのか,とても注目しています。

なほいまだナチスの民にまさらむと語り合ひにき幾年前か(柴生田稔)

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