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2019年11月13日 (水)

「ラオスにいったい何があるというんですか?」を読む

紀行文集「ラオスにいったい何があるというんですか?(以下,「ラオスに何が」)」(村上春樹)を読みました。

村上春樹の本はひととおり読んでいますが,長編小説はシリアスで気合いを入れて読むのに対し,エッセイや紀行文は気楽に読めます。おそらく村上氏自身もそれぞれを書き分けることで心のバランスをとっているんでしょう。この「ラオスに何が」もかるーい気持ちで読めます。

紀行文集なのですが,単に旅をしただけでなく,村上春樹が過去に滞在して執筆活動していた場所を再度訪れているので,一風変わった紀行文になっています。

その中身はというと,「チャールズ河畔の小径」(ボストン),「緑の苔と温泉のあるところ」(アイスランド),「おいしいものが食べたい」(オレゴン州ポートランド,メイン州ポートランド),「懐かしいふたつの島で」(ミコノス島,スペッツェス島:ギリシア),「もしタイムマシーンがあったなら」(ニューヨークのジャズクラブ),「シベリウスとカウリスマキを訪ねて」(フィンランド),「大いなるメコン川の畔(ほとり)で」(ルアンプラバン:ラオス),「野球と鯨とドーナツ」(ボストン),「白い道と赤いワイン」(トスカナ:イタリア),そして熊本の紀行文が2選。

村上春樹は,イタリアとギリシアに滞在しているときに「ノルウェイの森」を執筆。この本の大ヒットで日本にいるのが嫌になり,ボストンに滞在します。このときに執筆した作品が「ねじまき鳥クロニクル」。また,ギリシアでの風景を作品に取り入れた「スプートニクの恋人」。フィンランドが旅の終着点である「色彩をもたない多崎つくると,彼の巡礼の年」。村上春樹の作品が無国籍で世界各国で愛読されているのも,彼のコスモポリタンなスタイルが影響しているのかもしれません。

彼の小説には音楽が登場します。ジャズやクラシックなど,作品のあちこちに顔を出します。有名なのは「国境の南,太陽の西」でしょうか。主人公が思春期のときに,思いを寄せていた島本さんと一緒に聞いたレコードのタイトルが本のタイトルになっています。ジャズを紀行文に入れているのも思いが伝わってきます。

「ラオスで何が」を読んで気付いたのは,村上春樹はフィンランドに行ったことがないのに「色彩をもたない・・・」を執筆したということ。どうして小説の舞台にフィンランドを選んだのか,彼に聞いてみたいところです。

いろんな楽しみ方,読み方ができる紀行文ですが,私のお気に入りの紀行文は別の本。「もし僕らのことばがウィスキーであったら」。これはアイラ島などのスコッチウィスキーの故郷ともいうべき地方の紀行文。ウィスキー好きの私にはたまらない一冊です。スモーキーな薫りのするウィスキーって本当にあるんだということを教えてもらえました。

そういうお酒の知識もさることながら,登場する地元の愛好客のセリフがまたいい。シングルモルトウィスキー以外に何か飲まないのかと訊ねたとき「どうして天使が舞い降りてきて天上の音楽を演奏しようとするときに,ドラマの再放送を見なきゃいけないのかね」と返すなんて,そこらの二流作家には書けないセリフですよ。

村上春樹の執筆能力もこういうところで蓄えてきたのかも,と思うとまた楽しくなります。

エアメール海を渡りて掌(てのひら)の上に小さな愛ある不思議(俵万智)

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