一本ずつかけていく櫛(くし)のような街に残り続ける飲み屋
仕事で一段落できたので帰り道,なじみの小料理屋に寄りました。
入り口の引き戸をわずかに開けると,3人お客さんがカウンターに座っているのが見えました。3人とも60歳以上と思(おぼ)しき人たち。小料理屋のおばちゃんが忙しいだろうなと思い,そのまま戸を閉め,近くの電停に向かいました。
次の電車が来るまで少々時間があったので,20年以上前に通っていた飲み屋がまだ残っているのか気になって,鹿児島地域振興局の方に歩いてみました。
「花の係長」は暖簾(のれん)はかかり,中の電気は点いているけどその明かりが中途半端。看板の電気が消えていたのでパスしました。隣の「あづま」は営業していたので中に入りました。
「あづま」といえばホルモン煮が名物。定食だろうがコース料理だろうが必ずホルモン煮がついていました。しかし,峡の私には店先のメニュー表の「うんまかセット 1,280円」しか目に入りませんでした。
午後6時半過ぎでしたが店内には客は一人もなく,大将と女性店員が2人。セットの内容は「ビール(中ジョッキ),レバーペースト,刺身3種(2切れずつ),お好みで自由に選べる一品」。お好みの一品は「サンマの塩焼き」を注文しました。
注文ついでに隣の「花の係長」のことを尋ねると,「夜は営業していないみたいですよ。ご主人が亡くなられてからはお弁当だけみたい。夜電気がついていてもお弁当の仕込みじゃないかしら」とのこと。変われば変わるものです。
その後6人ほどお客が店にやってきました。私は午後7時には食べ終わり,店を出ました。店の前に人気(ひとけ)はなく,周りの店も灯りなし。道路向いの鹿児島地域振興局も2階以上にまばらに電気がついているだけ。さびしいなあ。
県庁が移転したのは20年以上前の平成8年の夏でした。その後跡地には県民交流センターができましたがこのように飲み屋はほとんどなくなりました。かといって今の県庁がある鴨池新町には飲み屋なんてごくわずか。県庁が移転した直後には飲み屋・定食屋も一緒に県庁近辺に移転しました。しかし,次々を店を閉じ,今ある店はごくわずか。場所が悪いのか,職員が飲まなくなったのか。
そういえばなじみの小料理屋のおばちゃんも,県庁が移転しただけではなく,南日本銀行がなくなったのが痛かったと話していました。街が変わるときって,櫛の歯が欠けるように連鎖的にこぼれていくのかもしれません。そう思うと,この小料理屋にしろ「あずま」にしろ,よく踏ん張っているなあって感心します。
いくつかのやさしい記憶 新宿に「英(ひで)」という店あってなくなる(俵万智)
コメント