鹿児島の焼酎生産はピークの半分に 束になってもかなわない黒霧島
先週,朝日新聞の経済欄に「鹿児島県の焼酎生産量が2004年のピーク時の52%に」という記事が出ていました。
2003年,「発掘! あるある大事典」が芋焼酎を大々的に取り上げました。「焼酎は悪酔いしにくい」(焼酎は日本酒などに比べてアルコールの分解が早い),「焼酎は太らない」(蒸留酒ですからカロリーゼロ。いくら飲んでも太りません),「焼酎は香りを嗅ぐだけで血栓を溶かし,血液をさらさらにする効果がある」(どういう仕組みなんでしょう?)。それから芋焼酎の一大ブームが巻き起こりました。
私はこのブームはずっと続いていると思い込んでいましたが,実はこの頃がピーク。生産量はそれ以降右肩下がりだったんですね。知りませんでした。鹿児島県全体の焼酎生産量が霧島酒造(黒霧島)に負けたというショッキングなニュースに接したのが数年前。まさかここまで低迷しているとは。
たまたま市立図書館で「黒霧島物語」(馬場燃)を見つけて読みました。宮崎県都城市の霧島酒造が,この焼酎ブームに乗って生産量を7倍に拡大した経緯が多角的に分析されていました。この本で特に興味深かったのは,「とろっときりっと」のコピーライター。朝,出勤途中のサラリーマンに黒霧島の無料サンプル提供。「ハローレディー」(女性の販売促進)創設。どれもこれも斬新な切り口です。
焼酎の品質が大事なのはいうまでもありませんが,杜氏制度を廃止したことや,芋の冷凍保存技術の開発,年間売上高を上回る設備投資など,思い切った方針を打ち出した歴代社長の経営感覚に舌を巻きました。
私は鹿児島県人。ふだん焼酎を飲むときは鹿児島県産の焼酎ばかりです。でも,県外にいったときには地元のお酒(焼酎,日本酒)を飲むように心がけています。いろんな味を楽しむのもいいと思うのです。
しかし,東京で鹿児島県人ばかりで飲んだとき,そんなことをすると顰蹙(ひんしゅく)を買うか,ひどいときはお説教を受けます。周囲には鹿児島県への愛情が深い人々が多いみたいです。
それがいいという人もいるかもしれませんが,わたしは嫌ですね。かつて種子島で仕事をしたとき,上司が種子島の焼酎メーカーと親戚でした。だから飲むときはいつも同じメーカーばかり。一度他の焼酎会社(それでも種子島ですよ)の焼酎を注文したら,さんざんその焼酎の悪口をいって途中で帰ってしまいました。
私からすればこの上司は「わがまま」。逆にそのときの上司から見れば私は「上司への気遣いがない奴」ということなんでしょう。そう考えて特に腹も立ちませんでしたが,島国根性もここまでくれば身内びいきを他人に押しつけることの裏返し。よくも悪くも鹿児島の保守性がでています。
霧島酒造の躍進を読み進むにつれて,宮崎県は進取の気性,外に打って出る気持ちが,鹿児島より勝っているんだと感じました。鹿児島はこの種子島の上司に代表されるように,地元で愛される焼酎ならそれで満足。一方,霧島酒造は志を高くして,より多くの人に愛されるように芋臭さを抑え,女性にも楽しめる焼酎をめざす。
どちらがいいかは見解が分かれるでしょう。ただひとつ言えるのは,地元志向を求める鹿児島の焼酎に,霧島酒造に生産量で負けて悔しいという人は,自己矛盾に気づかないバカってことです。
芋の香を今しばらくはとどめおき喉をぐらりと揺らせる「魔王」(俵万智)
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