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2019年7月

2019年7月27日 (土)

朝日新聞「論壇時評」 感情論で揺らぐ「政経分離」を読む

7月23日の私の歌コラムにおいて、日韓関係を「囚人のジレンマ」になぞらえて、その解決方法として「しっぺ返し」戦略を紹介した2日後、朝日新聞の論壇時評において「対韓輸出規制 感情論で揺らぐ『政経分離』」をテーマにしていました。旬な話題ですね。

ジャーナリストの津田大介のピックアップによる論壇時評によると、毎日新聞の澤田克己は今回の日本政府の規制措置を「長期的にはブーメラン効果で日本企業に痛みを強いる愚策」と断じています。問題点としては、1 自由貿易を主張してきた日本の国際的信頼の低下、 2 国際的な半導体供給への悪影響、 3 大口顧客である韓国企業への輸出が減ることによる日本企業の被害、 4 韓国が代替品の調達・開発を進め、結果的に日本企業の国際競争力が損なわれる、とするもの。

この主張に象徴されるように、津田大介(あるいは日本の論壇)は、今回の輸出規制が日本経済に悪影響を及ぼすという観点で問題視しています。規制措置の支持者は「韓国を苦しめたい」という感情論者だとして「ヒートアップした対韓感情を冷まし、政経分離を進める政策を政府には望みたい」と結んでいます。

この、日本経済へも悪影響論については一見もっともらしく思えます。たとえば4については、第2次世界大戦において日本から生糸を輸入していたアメリカは繊維不足に苦しみ、ナイロンを開発しました。これによって日本の生糸輸出(繊維産業)は衰退していきます。

でも、すべてにそれが当てはまるんでしょうか? 私はこういうときは立場を入れ替えて考える(反論する)ようにしています。澤田の主張になぞらえると、1 戦後賠償に関する条約を反故にする韓国の徴用工判決は国際的信頼の低下にならないのか? 2 韓国以外の半導体メーカーが増産すれば世界的に悪影響が生じないでのはないか? 3 日本企業は韓国以外の企業へ輸出を振り替えるチャンスではないか? 4 韓国から半導体が入手できなくなった世界の企業は別の国の企業から入手するルートを確立するだろう。そうすれば韓国が国内供給体制を構築する前に韓国の国際競争力は大きく低下するのではないか?

以上の私の反論はまったくの思いつきです。経済問題は複雑系のスモールワールドであって単純に予測ができるものではありませんから、私の反論はほとんどは実現しないでしょうね。でも、この論者達の言っていることがすべて実現するとは思えません。論者達のいうとおりだと、日本企業って経営能力のないバカばかりってことですよ。もしそのとおりなら、遅かれ早かれ日本経済は衰退していきますよ。

当然のことながら私が書いた「しっぺ返し戦略」を論じた説はありませんでした。やっぱりな。「しっぺ返し戦略」は知識人にとってはただの感情論みたいです。日本政府にとって大事なことは国際社会に対してはルールを守る、ルールを守らない国には対抗措置をとるという単純なことなんですけどね。複雑でわからないことを、さもあり得るかのように論じることがすばらしいなんてどこか間違っていると思います。

のぼりゆく草ほそりゆくてんと虫(中村草田男)