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2021年3月 1日 (月)

歌コラム的要約千夜一夜物語0008 二匹の犬を連れた老人の話

二匹の犬を連れた老人が魔神に話しを始めました。

この二匹の犬は私の兄です。私は三番目の弟なんです。私の父が遺産を金貨で3千枚残しました。これを兄弟で三等分して,それぞれが店をかまえて商売を始めました。

そうしているうちに,一番上の兄が一切の在庫を売り払って旅に出ました。1年後,私の店にぼろぼろの服を着た乞食が現れました。なんと旅に出た私の兄ではありませんか。訳を聞いても教えてくれませんでしたが,放っておけないのでお風呂に入れて体を清め,服や食事を分け与えました。私の財産は金貨で2千枚になっていましたので,その半分を兄に分け与えました。兄はそのお金でもう一度店を開くこととなりました。

それから間もなく,今度は2番目の兄が旅にでました。1年後,私の店にぼろぼろの服を着た乞食が現れました。これも旅に出た私の2番目の兄でした。やはり訳を聞いても教えてくれません。それでも私は,兄の体を清め,服や食事を分け与えました。このとき,私の財産は金貨で2千枚になっていたので,その半分を2番目の兄に分け与えました。2番目の兄はそのお金でもう一度店を開くこととなりました。

しばらくすると,この2人の兄が私に旅に出ようと誘うようになりました。旅に出て乞食になった2人の兄をことを知っていたので断っていたのですが,しつこく誘い続けます。こうして6年が経ちました。

私は2人の兄に提案しました。「私には6千枚の金貨があります。この半分を旅に出て失敗したときのために残しておきましょう。そして残りの3千枚を3人で分けて旅の稼ぎの元手としようではありませんか」

2人の兄は賛成しました。なぜなら,その頃には2人の兄はそれぞれ自分の財産を散財してしまい,すっからかんになっていたのです。

3人で船を買い,遠くの国で商品を売ると,元手の金貨の10倍になりました。その帰りのことです。ぼろぼろの服を着た少女が私のところにやってきました。そして「どうか私を妻にしてください。決して裏切ることはありません。かならずご恩に報います」というではありませんか。私はこの少女を引き取り,一緒に旅をすることにしました。旅を続けているうちにこの少女に魅了され,愛するようになりました。

それに応じて,私と2人の兄とは次第に疎遠になっていきました。それを根に持った2人の兄は,私を殺して財産を奪おうと考えたのです。航海の途中,2人の兄は寝ていた私を連れだし,海に投げ込んだのです。一緒に寝ていた妻は姿を魔女に変え,私を海中から引き上げると,そのまま遠くの安全な島まで運んでくれました。

妻は「私は魔女です。あなたのご恩に報いました。私はあなたの兄を殺します」というではありませんか。殺そうとしたとはいえ,私の兄です。「罪を犯す者には善を報いる者よ,悪人には悪事をさせておけ」ということわざもある。それはだめだと断りましたが,どうしても殺すべきだと言い張ります。

魔女はそのまま私を抱き上げると空を飛び,私の家まで連れて帰りました。私は隠しておいた金貨を掘り起こすと,親戚に分け与え,商品を仕入れ,また商売をすることにしました。すると家に2匹の犬がいるではありませんか。妻の話では,妻の妹にことの顛末を話すと怒った妹が2人の兄に魔法をかけて10年間は犬の姿にしたというではありませんか。それから10年経ったので,魔法を解いてもらうため,私はこの2匹の犬を連れて,妻の妹を捜す旅をしているのです。

話しを聞いた魔神はたいそう驚きました。そして約束通り,商人の血の3分の1をこの老人に分け与えることとしました。