「がん」の原因が感染症だっただなんて 胃がん撲滅戦略
講演要旨「わが国から胃がん撲滅を目指す戦略とその成果」(浅香正博)を読みました。
學士會会報には医学分野の話も掲載されています。今回の講演要旨は私自身が「なるほど」と思う内容だったので、紹介したいと思います。
がんの原因はなんだと思いますか? たいていの人は喫煙などが思い浮かぶのでは。論者の説では、主ながんの原因は、喫煙、生活習慣、感染症とし、日本では感染症由来のがんが多く、厚生労働省の調査によると日本ではがん患者の25%が感染症が原因となっています。
肝臓がんであれば肝炎ウイルス、子宮頸がんであればパピローマウイルス、胃がんであればピロリ菌といった具合です。
本来がんは高齢者の病気です。発ガン性物質によって遺伝子が木筒区と突然変異が起こり、がんが発生します。高齢になるほど遺伝子の変異を修復する能力や免疫機能が低下し、がんが発生しやすくなるからです。だからすべてのがんを予防することは不可能です。
WHOによると、2012年の世界の胃がん発生数は95万人余り。その6割が日本、韓国、中国で発生しています。そして国内の研究では、日本人の胃がん患者の98%がピロリ菌陽性であることがわかっています。
ピロリ菌は胃酸が十分強くない乳幼児期に経口感染(菌が口から入って感染)します。若い人ほどピロリ菌感染者が少ないことが調査で判明しています。というのも、ピロリ菌は井戸水などから感染するのですが、戦後は上下水道の整備が進んだからです。将来日本人の胃がん患者数は激減すると思われます。
しかし、現在ピロリ菌に感染している人もいるわけで、そういう人は除菌することが必要になります。除菌は胃潰瘍や十二指腸潰瘍の再発予防にもすぐれた効果がありますが、2000年にピロリ菌除菌に保険が適用されると、10年間で胃潰瘍・十二指腸潰瘍の発症が60%減少し、胃潰瘍は1950年頃までは年間2万人近くの命を奪っていましたが、今では完治できる病気です。除菌の効果ってすごいですね。
講師が政府に働きかけた結果、日本ではピロリ菌の除菌に関する保険適用が進み、胃炎でピロリ菌の除菌を認めているのは世界中で日本だけという除菌先進国となっています。
近年、日本では胃がんの死亡者数が減少していますが、講師の説では、ピロリ菌除菌の直接効果ではなく、保険を使用するためには内視鏡検査が義務付けられたことが原因というからおもしろい。
自覚症状の有無に関わらず、胃炎のチェックのための受検者が増え、内視鏡検査が増加。予後が極めてよい早期胃がんの発見が増えたことが胃がん死亡者減少の理由だといいます。
このほか、塩分摂取量の減少(1955年に17グラムだったのが、2015年には10グラム未満に)を理由にあげています。ピロリ菌が存在していると塩分摂取量が多いほど胃がんになる確率が高まるからというのです。逆を言えば、ピロリ菌がなければ塩分摂取量が多くても胃がんは発生しないということになりますね。
一方講師は、健康診断などでおなじみの「バリウム検査は効果がない」とばっさり切り捨てています。1986年のバリウム検診開始後、胃がん死亡者の総数は減少していないからです。
それはともかく、結論としては、胃がんで命を落とさないためには自覚症状に頼ることをやめて、ピロリ菌検査を受け、陽性なら除菌する。この知識が広まれば、胃がんで亡くなる人は激減していく。そういうことですね。
私も人間ドックではピロリ菌の検査をしてみようかな。あっ、バリウム検査はもうやめよう。
春嵐つのればさびしわれよりも若き腕(かいな)のうちにめざめぬ(稲葉京子)
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