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2021年1月

2021年1月29日 (金)

歌コラム的要約千夜一夜物語0002 シャーリヤル王とその弟の物語

狩猟から帰ってきた兄王,シャーリアル王をシャー・ザマンは出迎えました。兄王はシャー・ザマンの体調が回復していることに驚き,「どうして元気になったのか」と訊ねました。シャー・ザマンは「実は,このたびの出立の日に妻が黒人の料理人に抱かれているのを見て切り捨てました。そのことでいろいろ思い悩んで病み衰えていたのです。しかし,元気になった理由は聞かないでください」と答えました。兄王は元気になった理由をしつこく聞くため,シャー・ザマンは「あなたの災難を目撃し,あなたがすぐれた王であることを思えば,私自身の悲しみはずっと軽いと思ったからです」と答え,さらに詳しく聞く兄王にひっそりと王宮に戻ることを提案し,兄王は承諾しました。

兄弟が夜中に王宮に身を隠していると,朝になってから王宮の庭に男十人と女十人が現れて服を脱ぎ,妃はあのときと同じように黒人のサウードを呼び,それから2時間もの間,男女はみな欲情を満たしました。

その様子を目の当たりにした兄王は,王位を捨てて旅に出ることを決意しました。弟を引き連れて数日旅を続けるうちに,とある美しい水をたたえた泉に到着しました。そこで休憩をとっているとき,遠くからひとりの巨大な魔神が姿を現しました。魔神は7つの鍵がついた小箱を開けると,中から若く美しい女性が現れました。「おれはお前の処女を誰にも奪われないようにした。誰もお前を愛したり楽しんだりできないのだ」と言ってしばらく眺め,女の腿(もも)に頭を乗せて眠り始めました。

魔神の姿を怖がって隠れていた兄弟に気づいた女は,兄弟にこちらにくるように誘いました。来ないと魔神を起こして殺すと脅すのです。死にたくないふたりの兄弟は女のところに近寄ると,女はこの兄弟に自分とセックスをするように命じました。魔神が恐ろしいふたりは言われたとおりにしました。ことが終わると女は言いました。「わたしはこの魔神の枕元で570人の男とセックスをしました。それなのにこの魔神は知りません」

この言葉を聞いた兄弟はあきれかえり,われわれに振りかかった不幸よりももっと大きな不幸が魔神にあることを,そして今後は決して女とは結婚しないことを決意し,都に戻りました。

都に戻った兄王は,妃を死罪に処し,王宮の妻妾と白人奴隷をことごとく切り捨てました。兄王はさらに,どんな女と結婚しても夜に処女を奪って,あくる朝は斬り殺し,自分の名誉が傷つかないようにすることを誓いました。

シャーリアル王はその日からこの誓いを実行し,夜ごとにひとりの処女を犯してはあくる朝に殺すことを繰り返しました。それが三年も続いた頃には,人民に怨嗟の声があふれてきました。

ある日シャーリアル王は,処刑を担当する大臣に処女を連れてくるよう命じました。しかし,大臣がいくら探してもみつからず,悲しみにくれて家に帰りました。大臣にはシャーラザッドとドゥニャザッドと呼ぶふたりの娘がいました。姉のほうは書物や年代記,伝説に精通し,さまざまな物語などを読んでいました。しかも快活でやさしく,聡明で機知に富み,博覧強記なうえに,しつけもよい。

この娘は父の大臣からシャーリアル王の命じた話を聞くと,自分が処女たちの身代わりとなることを父にお願いしました。大臣は激しく怒り,牝牛(めうし)とロバの話を始めました。