« 熱く語る高校の同級生と20年ぶりに再会 ステージ4の悩みと驚き | メイン | うつ病の本当のところ 自殺は男性が7割、自殺未遂は女性が8割 »

2019年7月 8日 (月)

中国経済の冷徹な現状分析とアジア通貨構想の甘すぎる理想主義

小論「米中対立はなぜ深刻化したのか」(阿南友亮)を読みました。1970年代の米中接近からの中国経済史を中国共産党の改革派と既得権益派の対立で読み解いています。

ターニングポイントはやはり江沢民。国有企業の民営化を行ったものの、その実態は党幹部とその家族を中心とする既得権益派の富裕化。これによって中国国内の格差が拡大します。そして江沢民政権は共産党への不満を国外に転嫁するために日米をターゲットに排外主義を大々的に煽ります。

胡錦濤政権では冨の偏在を是正しようとしますが、その後継者は既得権益派の習近平。改革の矛先が再び鈍ります。そしてこのタイミングでリーマンショックが発生します。

この金融危機に、中国は莫大な額の財政出動を行い経済の破綻を回避したのですが、これによって世界経済の信用回復に貢献したため、世界的に中国に対する評価が過剰なまでに高まり、アメリカこそ世界経済のスタンダードという通念が大きく揺らぎます。中国の既得権益派はこのことで勘違いをします。「変わるべきは中国の政治・経済体制ではなく、米国を中心とした既存のグローバル経済の方だ」という強気な論陣の出現です。

習近平政権では、国内で市場と企業に対する統制を強化し、排外主義・膨張主義のナショナリズムに一段と力を入れ、外交面で対立した国々に経済制裁や軍事的恫喝を展開します。いまだに中国の主要企業には共産党の委員会が設けられ、経営に影響を及ぼしています。

アメリカ政府が制裁解除の条件として中国側に提示している構造改革は正鵠を射た要求ではありますが、この30年、改革派が既得権益派に連戦連敗だったことを考えると一朝一夕に中国政府の方針が変わるとは思えません。トランプ政権が続く限り、米中の対立は続くでしょう。

一方、小論「米ドル体制からのアジア経済の開放」(櫻川昌哉)は、アメリカ経済が世界経済に対して強大な影響力を有するのは外貨準備高のドルが原因だとします。貿易の決済の42%、世界各国の外貨準備高の64%はアメリカ・ドルです。アメリカのGDPが世界の15%あまりであることを考慮しても過大すぎる。そこで筆者は、中国が日本の国債を、日本は中国の国債をそれぞれ50兆円ずつ購入するという、いわば外貨準備の持ち合い(アジア通貨構想)を提案しています。

これによって日本円の世界に占める通貨シェアは4%から9%に跳ね上がり、逆に日中両政府から相当額のアメリカドル債が売り出されるので、ドルの通貨シェアは10%下落する。日中両政府は1銭も使うことなく、ドルに偏ったポートフォリオを是正できるというもの。これによって資産バブルや金融危機などの金融市場の混乱の頻度は減少すると断言。問題があるとするなら、日本も中国も貿易で成長しただけに自国の通貨高を心理的に嫌う傾向があることぐらいとのこと。

櫻川教授は数字上の計算が得意なんでしょうね。実現すればすばらしい(私は嫌ですけど)構想です。でも、どうやって日本政府がアメリカドル債を一度に放出できると思っているのでしょうか。米中対立が激化する中でこんなことできるわけないでしょ。また、中国の最大の輸出相手国はアメリカ。その中国が円を買ってどうするの? そして楽天的すぎるのがアジア通貨構想によって金融市場の混乱の頻度が低下するとの予測。たしかに個人であれば金融資産を現金、不動産、債権、外貨などに分散するのがリスク管理の王道です。でも、外貨準備は貿易決済に使うものですよ。中国共産党の指導のもとにある中国元の債権を大量に購入したらリスクが高まるとは思わないんですか? 正気とは思えません。

櫻川教授、せっかくですから阿南論文を一読してはいかがでしょうか。

やさしくて怖い人ってあるでしょうたとえば無人改札機みたいな(杉崎恒夫)

トラックバック

このページのトラックバックURL:
http://app.synapse-blog.jp/t/trackback/716622/34184319

中国経済の冷徹な現状分析とアジア通貨構想の甘すぎる理想主義を参照しているブログ:

コメント

コメントを投稿