「人間交差点」を読んでいた小学生が大人になって80年代を振り返る

ものごころがついた頃、「サスケ」(白土三平)という忍者漫画をよく読んでいました。小学校入学前だったかと思います。なぜか当時はコロコロコミックなどの児童向けのマンガはほとんど読まず、「火の鳥」や「ブラックジャック」(手塚治虫)など、どちらかというとより年齢の高い層向けのマンガを好んで読んでいました。

そんな中、思い出に残っているのが「人間交差点」(弘兼憲史)。人間模様をえがいた1話完結の短編集です。

軍艦島に生まれ育った姉妹が、都会から来た垢抜けた青年を頼って上京したものの、騙されて落ちぶれていく話。白梅子という珍しい名前をきっかけに、その女性の母親の悲しい過去を知る話。司法浪人の男性と結婚して一緒に夫の夢を追い続けていたものの、厳しい現実が続き、夫を憎み殺してしまう妻の話。未成年の女子学生を妊娠させてしまい、堕胎させるお金がない青年達がその女性を冷たい海に泳がせて流産させる話。

どの話も小学生の私には衝撃的でした。田舎で「のほほん」と暮らしていた私には、見たことも聞いたこともないことばかりでしたが、圧倒的なリアリティをもって私の心を揺さぶりました。

なぜこんなことを書いているかというと、今読んでいる「80’s(エイティーズ)」(橘玲)の「この圧倒的なリアリティを国会議員の語る<青少年の倫理観>や<正しい性教育>という、青ざめた概念に対置してみたい」という一文を読んだから。

この文章を書いた彼は、その後、ルポタージュ「別冊宝島」の編集者になり、表だっては見えないけれども確かに存在している人々の姿を克明に描いていました。私が高校生、大学生のときは貪(むさぼ)るように読みました。これらの本が私の目となって社会のリアルな姿を見せてくれました。

別冊宝島のひとつに「80年代はスカだった」という特集もありましたが、あの時代は本当に輝いていました。バラ色という意味ではなく、刺激的で強烈という意味で。当時の私のように、今の若者達も現代を「刺激的で強烈」と感じているのでしょうか?

「路地裏の少年」という曲のため少しまがりし君の十代(俵万智)

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